エンゲージメントサーベイとは? 実施の目的と効果・進め方を紹介
2024年3月29日更新
エンゲージメントサーベイとは、会社と従業員の結びつきの強さを測る調査です。従業員の現状や組織の課題を浮き彫りにし、生産性向上や離職防止の施策へとつなげることができます。実施にあたっては、事前に目的や測定したいことを明らかにしておくなど、いくつかのポイントがあります。本記事ではエンゲージメントサーベイの意味や目的、進め方などを解説します。
なお、パルスサーベイについては下記の記事もあわせてご参照ください。
INDEX
エンゲージメントサーベイとは?
前述のように、エンゲージメントサーベイとは、会社と従業員の結びつきの強さを測る調査で、従業員の自社に対する愛着心や貢献意欲をデータにより可視化します。ここでは、エンゲージメントの意味やエンゲージメントサーベイを実施する方法を解説します。
エンゲージメントとは
エンゲージメント(engagement)には「契約」という意味があります。人材開発の分野では、従業員と企業の結びつきを表す言葉で、組織に対する愛着心や愛社精神、「会社に貢献したい」という意欲のことを指します。エンゲージメントの高い状態であると、従業員は主体的に業務に取り組み、生産性が高まります。また、従業員エンゲージメントの向上により、離職率を改善することができると言われます。
従業員満足度との違い
従業員満足度とは、その名称のとおり、会社の制度や労働環境に対して従業員が満足しているかどうかを測る指標で、エンゲージメントとは異なります。会社の制度や待遇に満足できないと、従業員が会社を離職する可能性が高まります。そのような事態を防ぐため、従業員満足度調査では、従業員がどういった点に特に不満をもっているかを確認します。その結果をもとに、優先順位をつけて改善に取り組んでいくことになります。
エンゲージメントサーベイと従業員満足度調査にも違いがあります。エンゲージメントサーベイは、従業員が満足しているだけでなく、会社に貢献する意欲があるかどうかを確認するものです。一方、従業員満足度調査では、満足しているかどうかの確認に重点が置かれます。満足しているという結果には、「満足してはいるが積極的に貢献したいとは思わない」というケースも含まれるため、やる気や貢献意欲などを確認するのは難しいといえるでしょう。そのため、従業員満足度調査は主に、制度・待遇の見直しを図る際の現状確認や、打ち出した施策に対する従業員の満足度チェックを目的として行われます。
一方、エンゲージメントサーベイは、現在の組織の状態を確認・改善したい、企業理念が現場に浸透しているかを確認したい、離職率改善のための対策を打ちたいといった場合に適しています。
※参考:エンゲージメントとは? 組織風土改革との関係やマネジメントを解説
エンゲージメントサーベイを実施する方法
エンゲージメントサーベイを実施するには、自社で準備する方法と外部に委託する方法があります。
自社で行う方法は、具体的には、事前に会社全体あるいは部署ごとにどのような課題があるのかを予測し、自社に合った質問を作成します。質問に対し、「完全に当てはまる(5点)」から「完全に当てはまらない(1点)」までの5段階評価を設定し、点数が低い項目に課題があると判断するという方にするのが一般的です。
自社で準備すれば、コストを最小限に抑えられる、あるいは、目的の課題に沿って柔軟に質問を設定できるといった点がメリットです。ただし、手間がかかり、ノウハウも求められます。課題分析が難しいケースが出てくる可能性もあります。
外部に委託すると、質問設定から分析までを任せることができます。手間が省けてアドバイスをもらえることがメリットです。調査結果を受けた施策の実施についてのフォローをするサービスもあります。
実施にあたっては、数あるサービスのなかから、自社に合うものを吟味して選ぶことが大切です。実績と効果が提示されており、従業員の負担が少ない方法できること、分析結果のレポートがわかりやすいことなどをポイントに選ぶとよいでしょう。委託にかかる費用はサービスによって異なりますので、予算の範囲のサービスを選ぶ必要があります。
エンゲージメントサーベイの目的
エンゲージメントサーベイを成功させるには、実施する目的を明確にしておく必要があります。ここでは、企業がエンゲージメントサーベイを実施する際の主な目的を解説します。
組織の課題を浮き彫りにする
本来数値化できない従業員のエンゲージメントを数値化し、組織の課題を浮き彫りにすることです。課題を可視化することで現状がわかり、具体的な施策を立てることができます。エンゲージメントサーベイを定期的に行い、数値の変化を見ながら適切な施策を実施していくことで、従業員のエンゲージメント向上を図ることができます。
従業員について理解を深める
従業員への理解を深め、従業員が組織に求めていることと現状のギャップを把握するために行うこともあります。企業が従業員の期待に応えられない場合、離職につながる可能性もあるでしょう。エンゲージメントサーベイで従業員が企業に期待していることを知り、ギャップを埋める施策を実施して離職を防止することも目的のひとつです。
人事施策に役立てる
エンゲージメントサーベイは、データを人事施策に活かすことも目的としています。人事サーベイの実施により、会社の人事における課題が明らかになり、解決に向けた施策を講じることができます。
エンゲージメントサーベイで浮き彫りになる人事上の課題には、次のようなものがあります。
●職場のコミュニケーションが不足している
●マネジメントがうまく機能していない
●従業員のモチベーションが低下している
●従業員の主体性が発揮されていない
こうした人事上の課題を可視化し、それをもとに人事評価制度の見直しや労働環境の整備などに活かすことができます。
例えば、職場の雰囲気だけを見て「コミュニケーションが不足している」と感じても、課題解決の施策を打ち出す根拠にはなりません。しかし、エンゲージメントサーベイで、上司や部下・同僚との人間関係についての質問をすることにより、従業員が抱える不満や課題などを抽出できます。結果をもとに人事面談や社内コミュニケーションの活性化などの施策を講じることで、従業員のモチベーションアップを図ることができるでしょう。
エンゲージメントサーベイで得られる効果
エンゲージメントサーベイの実施により自社の課題を解決し、さまざまな効果やメリットを得られます。主な効果について、みていきましょう。
生産性を向上させる
エンゲージメントサーベイの実施により、生産性が向上します。これは、エンゲージメントサーベイの結果を踏まえて課題を見つけ、解決に向けた施策を講じることで、従業員のエンゲージメントが高まるためです。
会社と従業員の目的や方向性が合致することで、従業員がより仕事に対して主体的に取り組むようになります。積極的に働く意欲が生まれ、一人ひとりの生産性が向上します。指示されたから仕事をするのではなく、自分の仕事と捉え、会社のためにより多く貢献したいという認識のもとに従業員が主体的に仕事に取り組めるようになれば、商品・サービスの品質も高まり、業績アップにもつながるでしょう。
具体的には、たとえば営業部門であれば、会社や取り扱っている商品・サービスへの愛着が強くなるほど「顧客にもっと魅力を伝えたい」という意識が高まるものです。その結果、既存顧客の維持や新規顧客の獲得について成果を高めることができます。
離職を防止する
エンゲージメントサーベイの実施は、離職防止にも効果的です。従業員が離職をする理由では「仕事が合わない」「人間関係が悪い」といった理由が上位を占めています。しかし、そのような理由は最終的な結果であり、そう感じることになった過程にはさまざまな事柄が発生していると考えられます。
例えば、「仕事が合わない」と感じるに至った過程では、「上司や同僚からのサポートを受けられない」「仕事をする意義や目標が見出せず、モチベーションが下がった」など、人によりさまざまな理由があるでしょう。エンゲージメントサーベイでは、それら隠れた問題を浮き彫りにできます。根本原因である潜在的な課題を抽出でき、適切な施策が行えば、離職率の改善につなげることができるでしょう。
また、サーベイの結果を踏まえた施策の実施により、従業員のエンゲージメントが高まることで、会社への帰属意識が高まります。その結果、離職する従業員の抑制が可能です。
定期的なサーベイの実施により、離職の予兆を発見できるのも効果のひとつです。予兆をとらえることができれば、人事面談などフォローを行い、離職防止の対策をとることができます。
エンゲージメントサーベイの進め方
エンゲージメントサーベイの実施は、目的の明確化や従業員への説明など、進め方の手順にいくつかのポイントがあります。
目的を明確にする
エンゲージメントサーベイの目的については前の項目で説明しましたが、「自社ではどのような問題を解決したいのか」を明確にしておくことが大切です。
エンゲージメントサーベイの実施では調査することが目的になり、収集したデータをうまく活用できないケースもあります。それではサーベイを実施する意味がありません。目的を明確にすることで具体的な質問項目を決定でき、結果を活用して具体的な施策を講じることができます。また、従業員にエンゲージメントサーベイの実施を説明して理解を得るためにも、明確な目的が必要です。
目的は企業によって異なりますが、例として以下のような内容があげられます。
●離職率を改善する
●人事施策の立案を行う
●施策の効果測定や改善を実施する
●人材育成や人材開発に役立てる
●チームの生産性を向上させる
何を測定したいのかを明らかにする
目的を明確にしたら、次にエンゲージメントサーベイで何を測定するかを決めます。
例えば、生産性向上を目的とする場合、「仕事への満足度」「職場の人間関係」などが測定の項目になります。また、離職防止が目的であれば、離職につながりやすい「待遇や労働環境への満足度」「上司・同僚との信頼関係」などが設問項目になるでしょう。どのような質問項目であれば従業員が抱える問題が明らかになり、目的を達成できるかを考えることが大切です。従業員が正直な回答をしやすいよう、質問設定や表現に配慮することも忘れないようにしましょう。
質問の数は多すぎないようにすることも重要です。質問項目の量が多いと回答者の負担が増え、分析にも時間がかかります。エンゲージメントサーベイに不要な質問が含まれていないかをチェックするとよいでしょう。
質問の意味がわかりやすいことも重要なポイントです。質問が難しいと考えるのに時間がかかり、正確な回答を得られない可能性もあります。確かなデータを得るためにも、質問の内容はシンプルでわかりやすくする工夫をしましょう。
また、エンゲージメントサーベイは定期的に行うことも多いため、次のサーベイに再利用できる質問にすることもお勧めです。
事前に従業員へ説明をする
エンゲージメントサーベイを成功させるには、従業員の理解が欠かせません。従業員にサーベイの目的や実施手順、回答結果のフィードバック方法などを周知しておくことが大切です。メールなど文書で通知するのではなく、説明会を開くなどして全員に十分な理解を求めましょう。
サーベイは従業員の業務時間に実施されるため、目的を理解していないと面倒に感じたり、業務に支障が出て不満が出たりする可能性もあります。そのような状態でサーベイを実施しても適切な回答を得られず、実施する意味がなくなります。特に、定期的にサーベイを実施する場合は、従業員の回答が機械的な作業にならないよう、その都度、実施の目的や効果を説明することが必要です。
サーベイの実施で「従業員が不利益にならない」ということの説明も忘れないでください。「回答が評価につながるのではないか」「回答が上司に伝わるのではないか」という不安があると、正直な回答をするのを躊躇する可能性があります。
評価にはつながらないこと、他者に回答内容が漏れることはないことも説明しておきましょう。また、不安を取り除くには、匿名回答にすることも必要です。
従業員の協力を得るためには、負担をできるだけ減らすための配慮も欠かせません。そのため、繁忙期や年度末の実施は避けましょう。従業員の負担になり、仕事に追われている状態で回答しても正確なデータは得られません。気持ちに余裕があるタイミングで行うことが大切です。
エンゲージメントサーベイを1年に1回など定期的に行うときは、時期を同じにすると正確なデータが得られやすいでしょう。恒例にしておくことで、従業員もスケジュール管理ができます。
回答方法は、パソコンやスマホ、タブレットなど機種を選ばず実施できるようにするなどの工夫を行いましょう。質問項目が多い場合は、回答期間に余裕をもたせることも大切です。
明らかになった課題に対する施策を考える
調査が完了したら結果を分析し、明らかになった課題の解決に向けて施策を考えます。結果については、人事部や経営陣だけで共有するのではなく、従業員にも開示してフィードバックすることが必要です。
調査に協力したのに、その結果がどうなったのか、どう活かされているのかわからないというのでは、従業員は協力する意欲を失うでしょう。そのことでエンゲージメントを下げてしまう可能性もあります。
調査結果と分析した内容を伝え、会社としてどのように改善策を立てて実行するかを説明し、改善に取り組む姿勢を見せることが大切です。
改善策を立案する際には、実際に改善活動を行う従業員と一緒に課題について考え、ともに問題や課題点の解決に取り組むような仕組みを作ることをおすすめします。
会社が決めた改善策を実施するだけでは、主体性が生まれにくいでしょう。従業員との対話を行うことが、組織全体の改善や働きやすい環境づくりにつながります。
定期的に実施する
エンゲージメントサーベイは定期的に行うことも大事なポイントです。サーベイの実施で浮き彫りになる課題は企業によりさまざまですが、1回の調査と施策の実施で成果を得ることは難しいでしょう。改善の施策は効果検証が必要であり、そのための再調査をして、さらに課題を分析・施策を立てるという繰り返しが求められます。
また、課題解決がスムーズに行われても、ビジネス環境の変化は早く、従業員の状態も日々変化していきます。そのため、エンゲージメントサーベイは1回で単発で終わらせるのではなく、半年~1年の頻度で「計画→実行→評価→改善」というPDCAを回しながら実施し、組織の課題解決を行っていくことが求められます。
エンゲージメントサーベイの質問項目
エンゲージメントサーベイの質問項目は、実施の目的に応じて設定します。ここでは、エンゲージメントサーベイで設定する代表的な質問をいくつか紹介します。
会社に関する質問
従業員が現在の会社を総合的に見てどのように感じているのかを知るための質問です。会社に対する満足度や期待度などを把握できます。質問は、会社への愛着や貢献したいという意欲がどの程度あるのかがわかる内容にするとよいでしょう。
●仕事を探している知り合いや親族に自社のことをすすめたいですか?
●この1年の間で成長できる機会はありましたか?
●何かあったときに気遣ってくれる上司や同僚はいますか?
●職場に自分の成長を励ましてくれる人はいますか?
仕事に対する熱意を測る質問
従業員が仕事に対してどれだけ熱意やモチベーションをもって取り組んでいるのかを確認する質問です。積極的に取り組む「熱意」や仕事への集中力を示す「没頭」、そして意欲的に取り組む「活力」などの要素が、どの程度あるのかを測ることができます。
●仕事をしていると時間が早く経過すると感じますか?
●仕事をしていて能力を発揮できていると思いますか?
●自分の仕事を正確に遂行するために、必要な設備は整っていますか?
●同僚は質の高い仕事をすることに専念していますか?
●会社のミッションや目的を読むと、自分の仕事が意義あるものと感じられますか?
エンゲージメントを向上させる要因を知る質問
従業員が会社に貢献できていると感じているかを確認する質問です。組織との関わり方や職務の難易度、業務上必要な資質などを質問し、従業員が企業に対して貢献できていると感じているかをチェックします。携わっている仕事が自分の仕事であるという認識しているのかという点がわかる質問をすることがポイントです。
●職場で自分の意見が尊重されていると感じますか?
●職場に仲間と呼べる人はいますか?
●最近、職場の誰かに仕事で褒められましたか?
●自分が所属するチームの目標や戦略をどのくらい理解していますか?
●自分は会社の目標を達成する上で重要な存在だと思いますか?
まとめ:エンゲージメントサーベイの課題
エンゲージメントサーベイは、会社と従業員の結びつきの強さを測る調査で、従業員の自社に対する愛着心や貢献意欲をデータにより可視化することができます。サーベイの結果から、組織の課題を浮き彫りにすることができるため、その解決策を講じることで、従業員エンゲージメントを高め、生産性を向上させる効果が期待できます。
もちろん、サーベイツールを導入しただけではエンゲージメントを向上させることはできません。人事としてはエンゲージメントを向上させるための研修や、人事制度の改善整備をすすめていかなければなりません。
※参考1)「従業員エンゲージメントの高め方 おすすめの方法6選」
参考2)「従業員エンゲージメント向上研修プログラム(資料DL)
また、人事としては極端な例ですが「従業員のエンゲージメントは上がったが業績は上がらなかった」というケースもあることは認識しておくべきでしょう。エンゲージメントメントサーベイは「経営」の一部分にしか焦点を当てていないということは、理解しておく必要があるでしょう。
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