自主責任経営が体感できる 「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」
2022年8月 5日更新
主体性やチームワークを養う新たなツールとして開発された「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」。2022年5月31日からクラウドファンディングにて受注を開始したところ、2022年7月31日の終了時点では支援者数505人、支援総額13,587,498円と大きな反響を呼んでいる。その魅力はどこにあるのか。他にない特長と体験者の反応を紹介しよう。
経営者として「共存共栄」を目指す協力型ゲーム
「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」の最大の特長は、プレイヤーの主体性やチームワークを高める点にある。ボードゲームでよくあるのは、サイコロやルーレットを回し、いち早くゴールした人が勝ち。あるいは進んだマスで遭遇する指示やイベントに応じてポイントが加算/減算され、最終的により多くポイントを獲得したプレイヤーが勝利するといったものだろう。つまり、各自が競い合うというのが基本だ。
しかし、この「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」はまったく違った発想にもとづいてつくられている。プレイヤーが互いに競い合うのではなく、全員で協力して目標の達成を目指すというのが最大の眼目なのだ。
もう少し具体的に説明しよう。松下幸之助が創業したパナソニックグループのように、世界的に活動を展開するメーカーの経営を担うというのが基本設定。
3~ 6人のプレイヤーそれぞれが経営主体、つまりグループにおける一事業会社の経営トップ(あるいは一つの会社における部門長)として、みずから率いる組織の経営を行ない、他のプレイヤーと協力して全社の経営に貢献することを目指す。世界を舞台としたメインボードに各プレイヤーがコマを置き、サイコロで縦横に進む中で得た資金をもとに、みずから率いる組織で雇用や仕入、製造、営業を強化していく。ときには会議を開いて他のプレイヤーと話し合って戦略を立てたり、資金や資材などを調達し合ったりも。
このように各プレイヤーが時々刻々と変化する全体の状況を読みながら、それに合った経営判断を下していくところにこのボードゲームの1つの面白さがあるのだが、それだけではない。他のプレイヤーと協力し合う中で全社への「貢献値」を獲得していくため、実際にそれを達成したときには全員で喜びを分かち合うことができる。それこそがこのボードゲームの最大の魅力である。
互いの経営判断を称え合い、さらなる目標を一緒に目指していこうという気運がどんどん高まっていくのだ。
最初は自分の"経営方針"をどうしようかと迷ったり、サイコロの目が思うように出ず"経営不振"に戸惑ったりすることもあるかもしれないが、一緒に取り組むプレイヤーとコミュニケーションを重ねて「関係の質」を強めていくうちに、おのずと"経営パートナー"として協力体制を築き、松下幸之助が志向していた「共存共栄」の世界が生まれてくるのである。
「自主責任経営」を鍛える効果
「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」を実際にプレイした方にどのような意識の変化があったかを尋ねると、下の図表のようなかたちに集約される。この意識の変化は、実は松下幸之助の経営哲学・理念でいう「自主責任経営」の感覚を養うプロセスと重なり合う。
プレイヤーの意識の変化
(1)ゲームの仕組みがよくわからなくても、基本ルールを押さえて「とりあえずやってみる」
(雇用や仕入、製造をする)
→まずそれぞれの行動から
(2)ルールなどを教え合っているうちに、「自分がやるべきこと」がわかってくる
(それぞれが勝手にやっても非効率だ)
→メンバー間の対話と自立が始まる
(3)その繰り返しの中で、おのずと「お互いの状況」が見えてくる
(ある人は営業が強い、ある人は製造が強い)
→チームに共感が生まれる
(4)さらに、今の状況の中で、「相手のために自分がやれること」に気づく
(自分は仕入に特化しよう!)
→リアルな協働が動き出す
(5)そして、お互いが持っているものを活かして「全体としてどうすればいいか」「それぞれがどんな役割を果たせばいいか」がより明確にわかる
→組織として自主責任経営が生まれる
「自主責任経営」の実践にあたって、組織の舵取りを任された責任者は、自己の責任のもとに自分の裁量で経営判断を下し独自の行動を取るが、ただ自己利益を追求すればいいというわけではない。やはり全体の利益のために何ができるかを忘れてはならない。
このボードゲームの中でも、プレイヤーはともすれば自分の経営力を高めるだけの判断をしてしまうという落とし穴がある。ついつい目の前の小利を得ることや部分最適を図ることに考えが向いてしまい、「何のために行なっているのか」という使命や大きな目的を見失ってしまう。
それがゲームの中でも起きてしまうのだ。そんな体験から「自主責任経営」の何たるかに気づきを得ることができるのである。
このボードゲームではゲームを通じてプレイヤー同士が「関係の質」を強め、協力関係を築けるかどうかが重要なポイントとなるというのは先に述べた通りだが、実際の組織の力というのも、詰まるところ個人と個人の関係性、そして組織と個人の関係性で決まるものであろう。
このボードゲームは個人個人が互いに結びつく意義を理解させ、組織の中の個人として、どんな役割を果たすべきかを自覚させようとする。この感覚が「自主責任経営」を鍛える肝となってくるわけだ。
ボードゲームではあるものの、「参加者の関係の質を変えられる教材」として活かせる可能性を十分に持っているといえそうだ。社内研修等においても工夫次第で本格的な運用が図れるだろう。「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」が組織内のコミュニケーションの壁を取り払う特効薬となるものと期待したい。
※本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』Vol.2 2022 SUMMER 7-9の内容を一部再編集したものです。
渡邊 祐介(わたなべ・ゆうすけ)
PHP理念経営研究センター 代表
1986年、(株)PHP研究所入社。普及部、出版部を経て、95年研究本部に異動、松下幸之助関係書籍の編集プロデュースを手がける。2003年、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程(日本経済・経営専攻)修了。修士(経済学)。松下幸之助を含む日本の名経営者の経営哲学、経営理念の確立・浸透についての研究を進めている。著書に『ドラッカーと松下幸之助』『決断力の研究』『松下幸之助物語』(ともにPHP研究所)等がある。また企業家研究フォーラム幹事、立命館大学ビジネススクール非常勤講師を務めている。