メンバー全員が発揮するリーダーシップと具体的な行動
2023年7月13日更新
リーダーシップ教育の第一人者・舘野泰一氏(立教大学経営学部 准教授)に、リーダーシップ教育のあり方を学ぶシリーズ。第2回は、企業における組織の現状、問題点とリーダーシップを発揮する具体的な行動をご紹介いただきます。
●第1回:新しいリーダーシップ教育の理論と立教大学経営学部の実践
INDEX
リーダーシップは組織メンバー全員が発揮するもの
企業で働く人に「リーダーシップから連想するイメージは、どんなものですか」と聞くと、多くは「責任を持って周りを引っ張って決断するのがリーダーシップ」という答えが返ってきます。これは、リーダーシップにとって確かに重要な側面ではありますが、これだけがリーダーシップと考えるのは、かなり視野が狭いような状態ということになります。
近年のリーダーシップ論では、リーダーシップは全員が発揮するものと定義しています。全員がリーダーシップを発揮するほうが、組織のパフォーマンスが高くなっていきます。そして、リーダーシップというと、引っ張るとか、何か自分中心でやってくというイメージがあるかもしれませんが、陰から支えるような行動も当てはまるということ。また、リーダーシップは学習可能であって、才能やセンスだけで決まるものではないということが一般的になりつつあります。
つまり、リーダーという役割と、リーダーシップは異なるものであって、チームをより良くするリーダーシップという影響力に関しては、メンバー全員が発揮するができますし、全員が発揮したほうが、組織がより良い成果を生み出すことができるのだというのが、近年のリーダーシップ論で言われていることです。
リーダー頼み、メンバー任せの組織の現状
こういうリーダーシップが発揮される組織というのを理想にしてやっていきたいと思うのですが、なかなか実際の企業の組織というのは、そうはなっていないというのが現状です。
やはり多くの組織では、リーダーとメンバーの間に明確な線というのがあります。「うちの上司は微妙だな」とか「職場の雰囲気が悪いので何とかしてほしい」というように、リーダーの責任にしている。固定のアジェンダが消化されていて、何となく物事が進んでいって、むしろリーダーのお手並み拝見ではないですけれども、そんなことになっている組織は多いものです。これはメンバーサイドから見たときの「リーダー任せ」という環境です。
逆にリーダーサイドとしても「うちのチームのメンバーは微妙だな」「全然、自分で動こうとしない」というように、自分は変化しないことを前提に、用意した結論や考えをやってもらったり、環境を整えていないのだけれども自発的に動くことを期待してしまったりしている。これが「メンバー任せ」という状況です。
いずれにも共通するのは、リーダーとメンバーが、お互いの間に線を引いて、自分ではなく、相手に変わってほしいと思っている。そのうえで「なんか、うまくいかないな」とお互いが思っている状態。これが、あちらこちらの組織で起こっているのではないかと思います。
「シェアード・リーダーシップ」
リーダーシップを全員が発揮している状態を作るには、リーダーとメンバーが線を引いて「私達は別々」というのではうまくいきません。同じサークルの中に自分たちはいる、そのなかでお互いができることをやっていくという状態を、いかに作っていくのかということが重要なポイントになります。
電車に乗っているときに「満員電車はいやだ」と思うことがありますが、満員電車がなぜ満員なのかというのは、自分もそこに乗っているから満員電車なわけです。つまり「なんかうちの職場って雰囲気悪いよね」「なんか微妙だな」と思うとき、管理職もメンバーも、実はその場を構成する一員であるということを考えてもらいたいわけです。自分と他者を切り離して、これが問題だというのではなくて、自分もその環境の一部であると捉えたうえで、「自分に何ができるのか」を組織のメンバー一人ひとりが考えられるような状態を作ると、良い組織になるということです。
全員がリーダーシップを発揮している状態は、アカデミックには「シェアード・リーダーシップ」と言われます。リーダーシップが、権限をもっている人だけではなくて、それぞれのチームメンバーに分散されていて、みんなが相互にリーダーシップを発揮している状態ということです。
リーダーシップを発揮しやすい組織の状態
「シェアード・リーダーシップ」は、既にもう答えが出ていてこれだけをやっていけばいいという状態の組織ではなく、何か新しいものを作らなければいけない、とか、ちょっとした環境変化に対応していかなければいけない、という状態の組織のほうが発揮しやすいし、また効果的であることがわかっています。
それは、ある意味当然といえば当然で、たとえばコロナ禍という状態のときには、刻々と状況が変化してリーダーにもどうしたらいいのかという答えがわからなかった。「明日はどうなるのですか」と聞かれても、「いや、俺もわかんないし」というような状況です。こうした状況では、メンバー全員が協力せざるを得ないわけです。さらに、やるべきことが新しいことであればあるほど、若手たちの力も必要になってきます。このように考えると、リーダーに「答えを教えてくれ」「指示をしてくれ」というのではなくて、そこにいるメンバーたちそれぞれがリーダーシップを発揮している状態を作る方が、組織として圧倒的に強いということがわかります。
リーダーシップの具体的な行動
リーダーシップは「職場やチームの目標を達成するために、他のメンバーに及ぼす影響力」と定義することができます。この定義の中には、「リーダーがやってください」とか、「誰々がやってください」というような主語が入っていません。それはすなわち、リーダーだけではなく、そこにいるメンバー全員が発揮することができるものであるという考え方です。
そして、その職場やチームの目標を達成するために必要な行動というのは、どんな行動であっても、リーダーシップであるということが言えます。その目標を達成するために、それぞれ何ができるのかということを考えて実行していく、それができている状態が、全員発揮のリーダーシップができている組織ということになります。
リーダーは、メンバーが考えるために必要な情報を共有したり、チームの目的や方向性を示したりする必要がありますし、メンバーも、リーダーがいいとか悪いとか批評をするのではなくて、自分の立場からできる貢献は何かということを考えて目標達成への貢献を意識して行動する。そういう状態をいかに作っていくのか。それが、これからの組織の中で求められているリーダーシップの一つの形なのかなというふうに思います。
スーパーリーダーではなく、スーパーチームを作る
皆さんにもご経験があるかもしれないですが、たとえば、ある会議に参加したときに「この会議って、ちょっと発言しにくいな」と思うことがあります。そうした雰囲気に関しては、新人メンバーのほうが敏感です。そして新人メンバーは「この会議の仕組みを変えましょう」というようなことはなかなか言えません。一方で、リーダーの立場になると、自分の話は必ずみんな聞いてくれるわけですから、「発言しにくい」という状態が把握しにくくなります。
こういうことを考えると、一人のスーパーリーダーが、組織の状態をすべて把握して担当の人に何か新しいことを任せるというのではなくて、組織のいろいろな立場の人たちが組織のシチュエーションを見る複数の目になり、それぞれが組織を良くしていく行動をとるということが必要であることがわかります。
そういう意味で、組織のリーダーにリーダーシップを学んでもらうのはもちろん重要なことなのですが、若手もリーダーシップを身につける。そして若手には若手の視点からしか見えない組織の状態がありますから、学んだリーダーシップを、組織を良くすることに活かしていく。新人や若手、中堅など、役職についていない人も、組織全体を見てチームに貢献する。つまり、スーパーリーダーではなく、スーパーチームを作る。これが目標になってくるというわけです。
●シリーズ第1回「新しいリーダーシップ教育の理論と立教大学経営学部の実践」
●シリーズ第3回「若手社員にリーダーシップを教育するメリットとは?」
舘野泰一(たての・よしかず)
1983年生まれ。立教大学経営学部 准教授。青山学院大学文学部教育学科卒業。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学後、東京大学大学総合教育研究センター特任研究員、立教大学経営学部助教を経て、現職。博士(学際情報学)。大学と企業を架橋した人材の育成に関する研究をしている。具体的な研究として、リーダーシップ開発、越境学習、ワークショップ、トランジション調査などを行っている。近著に『パラドックス思考 矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる』(ダイヤモンド社・共著)、『これからのリーダーシップ 基本・最新理論から実践事例まで』(日本能率協会マネジメントセンター・共著)など。