早期離職を防ぐために、若手社員の「相談力」を育成する!
2019年11月14日更新
若手社員の早期離職を防ぐためには、職場で孤立させないために「相談力」を身に付けてもらうことが重要です。では、具体的にどのように相談の方法を教えればいいでしょうか。
若手社員が上司に相談できないことが大きな損失に......
「最近の若手は主体性が足りない」「自分から相談に来ない」という上司の方の話をよく耳にしますが、若手社員のなかには相談するのが得意でない人が少なからずいると思われます。忙しそうにしている上司に相談すると、イヤな顔をされるのではと思ったり、実際に「後にしてくれ」と言われたり、そうした経験が重なることによって苦手意識をもってしまうケースもあります。どのように相談するのかがわからないことから、相談する前にあきらめている人もいるかもしれません。
しかし、あきらめることで問題が放置されると、上司が気づいたときには大きなリスクに発展している可能性もあります。さらには、しかるべき相手に相談できないことから、若手社員が孤立感を深め、早期離職につながってしまうことも少なくありません。相談を受ける上司の教育も、もちろん必要ですが、若手社員が何か問題を感じたときにきちんと相談できるように、社員教育のなかで「相談の仕方」を指導していくことは企業の人材育成上の課題といえるでしょう。
何を相談し、何を得たいのかを考えさせる
PHP通信ゼミナールのテキスト『できる社員は相談上手! 人を動かす仕事術』によれば、相談上手な人とは「自分の悩みや困っている問題について、自らも意見を述べて提案しつつ、他の人からヒントや支援を引き出し、解決に向けたコミュニケーションができる人」です。そう考えると、仕事で人に相談する際には、まず「何を相談したいのか」をよく考えなければなりません。同時に、相談を通じて「何が得たいのか」を明確にし、自分で問題を整理して明確にしておかなければ、相談そのものが的外れなものになってしまうでしょう。同テキストには次のような解説があります。
なんらかの展開を望んでいるのは確かでも、何を望んでいるのか自分にも明確ではない場合があります。そんなときは、テーマは何か? 何について相談したいのか? そして、得たいものは何か? というように望んでいるものを整理して把握し、内容に応じて、誰に相談するか検討しなければなりません。
若手社員に「相談力」をつけさせるには、相談内容を自分で理解し、論点をまとめ、さらに目的まで考えておく習慣を身につけさせるということです。
相談する相手を選ぶ
何をどういう目的で相談するのかがはっきりしたら、次に「誰に相談するのか」を考えます。適切な人に相談することで、問題解決に近づくことができます。誰に相談するのかを判断するには、相談しようとしている問題に「どの部署の(もしくはどの会社の)誰が関わっているのか」を明確にしておかなければなりません。これをリストアップしておくことで、「その問題についての人・部署・会社の相関関係」がわかります。そしてリストをつくる過程で、自ずと相談すべき相手が浮かび上がってくるはずです。
相談するタイミングと場所について
いつ、どこで相談するのかを考えるのも重要な要素になります。若手社員の場合、経験不足などが原因で空気が読めず、時と場所とをわきまえずに相談しようとする人もいます。それでは相談される側に迷惑がかかり、問題解決から遠ざかることもあり得ます。同テキストでは、相談のタイミングや場所について、次のように説明されています。
相談したい相手の様子を見て、相談のために時間をとってほしいと依頼しましょう。その際、何についてどのくらいの時間をいつまでにとってほしいかもあわせて伝えます。緊急であるとか、ごく近い時期に返事がほしいなどの情報を伝え、相談のための時間と場所をつくってもらうのです。
率直に意見を言うには、周りのことを気にせず話し合える場所が必要です。静かで邪魔が入らない会議室のような場所が一番よいでしょう。
上手に相談する話の組み立て方を教える
実際に相談するときには、どういうふうに話を組み立てて伝えるのかが非常に重要になります。せっかく相談に乗ってもらっているのに、要領を得ない話をしてしまったら、相手に真意が伝わらず、解決できるものも解決できなくなる可能性があるからです。
先述のテキストには「DESC(デスク)」という「セリフづくり」の手法が紹介されているので、要点をご紹介します。「DESC」とは、「describe」「express,explain,empathize」「specify」「choose」の頭文字をとった略称です。
D=describe(描写する)
問題があると感じ、相談したいと思っている事柄を、「事実に基づいて客観的に説明」します。ここでは、主観と客観を分けることがポイントになります。相談する相手と事実を共有し、「共通認識」を持つことからスタートするのです。
E=express,explain,empathize(表現、説明、共感する)
次に、問題があると感じている事柄に対して、「自分自身が思っていること」を表現し説明します。このとき、「みんな困っています」「みんなそう思っています」というのではなく、「私」を主語にして、「私はこう思っている」というように「私メッセージ」で伝えることが大切です。さらに、その問題の原因をつくった人物の立場に立って、「(その人は問題を起こしたけれども、ある面では)共感できる部分もある」という言葉を添えると、相談される側は気が楽になり、意見を言いやすくなります。
S=specify(提案する)
問題を相談相手に丸投げして、ただ解決方法を考えてもらうだけでは不十分です。その問題について、「具体的で、現実的な、小さな行動変容を明確に提案すること」がポイントになります。
C=choose(選択する)
その提案が必ずしも認められるわけではありません。保留されたり、止めておこうといわれたりする可能性は十分にあります。そのため相手が方法を選択できるように、第二、第三の提案を用意しておくことも必要です。相談をもちかけた相手の考えもくみながら、自分の考えもきちんと出していくのが、前回お話しした「アサーティブな表現」であるといえます
相談がうまくできない若手社員に対して、このような方法を提示しながら指導を行えば、着実に「相談力」を伸ばせるのではないでしょうか。「相談力」が伸びれば、組織の風通しもよくなり、組織風土の改善に近づいていくはずです。
※本記事は、PHP通信ゼミナール『できる社員は相談上手! 人を動かす仕事術』のテキストを抜粋・編集して制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。