怒りや劣等感と、どう向き合う? ネガティブな感情をコントロールする方法とは?
2022年10月 4日更新
怒りや劣等感など、ネガティブな感情は誰でももってしまうものです。しかし、仕事で感情に任せた行動をとると、相手の信頼を失ったり、人間関係を悪化させるなどの事態を招く可能性があります。そこで本稿では、ネガティブな感情をコントロールし、よりよい人間関係を築くためのヒントをご紹介します。
「怒り」には「4つの目的」がある
「怒り」の感情は、出し方を間違えると、職場での人間関係を壊してしまうおそれがあります。無駄に怒ったり、職場の雰囲気を悪くしたりしないためにも、社員教育を通して「怒り」への対応方法を指導していくことが大切です。
実は「怒り」には、次の4つの「目的」があるといわれています。これを理解しておくことで、怒っている人の心情が察しやすくなるでしょう。
(1)相手を支配するため
上司と部下、先輩と後輩といった具合に「明らかな上下関係」がある場合、怒ることによって、上の立場の人が下の立場の人をコントロール(支配)しようとする
(2)自分が主導権を握るため
対等な立場の相手に対して、怒りによって相手を威圧し、主導権を握ろうとする
(3)自分の権利を擁護するため
自分の権利が侵害されたり、侵害されそうになったりしたとき、怒りによって権利を守ろうとする
(4)正義感の発露として
規則・規律を守らないなど、反社会的な人に対して、怒りによってルールを守らせようとする
「怒り」とは「二次感情」である
また、「怒り」とは「二次感情」であって、その奥には、下図に示したような「一次感情」が潜んでいます。つまり、「怒り」の感情が最初から単体で現れるのではなく、それ以前に「心配」や「悔しさ」や「失望」といった一次感情が心の中でうずまいていて、それが何かのきっかけで「怒り」という二次感情に変化してしまうのです。
「怒り」はコントロールできる
いったん怒りの感情を露わにしてしまうと、なかなか引っ込みがつかなくなることが多いものです。そのため、怒りはコントロールするのが難しいと思われがちです。ところが、実は誰でも怒りの感情を瞬時に抑える能力をもっています。例えば部下や後輩に対して叱責していた最中に、お客様から電話がかかってきたとします。するとその人は、一瞬にして怒りの感情を消し去り、穏やかな口調で電話対応をするでしょう。これは私たちが「怒りの感情をコントロール」できるという証拠だといえます。
前述の通り、怒りはあくまでも二次感情であり、それ以前に私たちの心にはさまざまな一次感情がうずまいています。もしも怒りの感情が爆発しそうになったら、ひと呼吸おいて、その原因である「一次感情を冷静に伝える」方向に切り替えるよう努めることが大切です。それがうまくできれば、相手の行動を変えることにつながる可能性が高まります。
タイプ別「困った人」とのつきあい方
上司や先輩や同僚を「選べない場」である会社において、時には「困った人」と関わり合いになる可能性があります。
ここではタイプ別の「困った人」との付き合い方のヒントをご紹介します。
1.「不適切な行動」を繰り返す人
不適切な行動とは、例えば「お局様の新人いびり」「パワハラ上司の頻繁な怒りの爆発」「失敗を隠蔽し、バレたら言い訳をする」「無責任な対応」「叱責されたら人前でも泣く」「無断欠勤」などがあげられます。
こうした「不適切な行動」の裏には、次の4つの目標があると考えられます。
(1)注目を得る
「私を見て!」「私って可哀そう!」といった気持ちを誇示しようとしている
(2)権力闘争に勝つ
若手をいじめるなどして自分が優位に立ち、その職場で君臨したいと考えている
(3)復讐する
以前何かあった相手に対して、相手に不利益を被らせようとしている
(4)無気力さを呈する
やる気や能力がないことをひけらかし、責任や役割を放棄しようとしている
「不適切な行動」は、本人が自覚してわざと行っている場合や、無自覚に行っている場合があります。いずれの場合も、周りに迷惑をかける「困った人」の内心には、上記のような目標があることを理解したうえで、その人への「認知」を変え、「接し方」を工夫していく必要があるでしょう。
2.依存的な人
何でも人に頼りがちな人や、言われた通りのことはできても、自分で考えて創意工夫するのが苦手な人などは、「依存的な人」であるといえます。こういう人は、突き放すと途方に暮れてしまい、逆に何でもやってあげるとさらに依存するようになる傾向があります。
そうではなく、「どの部分がわからないのですか?」「どうやったらできると思いますか?」といった質問を投げかけて、「本人に考えさせる」ように仕向けることが重要です。それを日々続けて、「自分で考え、自分で実行した」という成功体験を積んでもらうのです。
3.ネガティブをまき散らす人
批評家気取りで他人を馬鹿にしたような発言をする人や、陰で誰かの悪口や真偽不明の噂話ばかりする人は、「ネガティブ」をまき散らしているといえます。そうした人に対して、否定して反論したり、反対に話に乗ったりするべきではありません。反論したら火に油を注ぐことになり、話に乗ればその人の同類になりかねないからです。
ネガティブな批評話が始まったら、ニッコリ笑ってその場をさりげなく離れるようにしましょう。悪口を聞かされたら、「へー、そうなんですか。でも、私は興味がないので」とお茶を濁して距離をおきましょう。その人との接触を最小限にすることで、精神の安定を得ることができます。
4.責任感がない人
責任感がない上司や先輩と関わる際には、距離をとるよりも、むしろ距離を詰めて密なコミュニケーションを取り合うべきです。「〇〇さん、教えてください」「〇〇さん、確認をお願いします」といった具合に相手に関わってもらい、そのたびに感謝の言葉を添えるようにすれば、だんだん責任ある対応をしてくれる可能性が高まります。
責任感がない部下や後輩と関わる際には、たとえ小さな作業でも、ひとつ完遂するたびに「事実に基づいて」相手を評価するようにします。これが相手への「勇気づけ」となり、徐々に自分の責任に向き合う姿勢が生まれる可能性が高まります。
このような接し方を通して、責任ある仕事をするようになれば、お互いの信頼関係も高まり、やがて成果も現れるようになるのではないでしょうか。
劣等感との向き合い方
「怒りのコントロール」とともに、誰もが抱きがちな「劣等感」の克服も重要な課題です。劣等感には大きく次の2種類があります。
(1)対他的劣等感
「できる他人」と「できない自分」とを比較した際に芽生えるマイナスの感情
(2)対自的劣等感
「理想の自分」と「現状の自分」とを比較し、理想に届いていない現状の自分に対して抱えるマイナスの感情
実は劣等感自体は悪いものではありません。劣等感があるからこそ、私たちは努力し、成長し、向上していくことができるからです。また、「対他的劣等感」で「できる他人」と「できない自分」とを比較していた状態から、「その人のようにできる自分」と「まだできていない自分」という「対自的劣等感」に変化していくことがあります。これを成長の原動力にしていくことが大切なのです。むしろ「劣等感は必要なもの」と考えるべきでしょう。
※本記事は、PHP通信ゼミナール『アドラー心理学に学ぶ「対人関係力」の高め方』のテキストを抜粋・編集して制作しました。
PHP通信ゼミナール
『アドラー心理学に学ぶ「対人関係力」の高め方』
アドラー心理学をベースに、相手との距離のとり方や感情の伝え方など、対人関係力アップに必要な考え方や手法を学び、重荷や困難に感じることなく、良好な関係を築く術を身につけます。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。