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就業規則見直しのポイント~「パワハラ防止法」施行前に人事部が取り組むべき課題

2019年9月17日更新

就業規則見直しのポイント~「パワハラ防止法」施行前に人事部が取り組むべき課題

2019年5月に可決・成立した「パワハラ防止関連法案」。施行は、大企業が2020年4月、中小企業が2022年4月になります。施行前に人事部として取り組むべき課題は何でしょうか。

「パワハラ防止法」施行を前に、企業が取り組むべき主な課題

「パワハラ防止法」で言及した「指針」や「ガイドライン」が施行時に出てくると思われますが、「指針」の内容はある程度予想がつきます。というのは、男女雇用機会均等法の改正によって、企業のセクシュアルハラスメント防止の義務が措置義務に昇格した際の「指針」から類推できるからです。そこで企業が取り組んでおくべき主な課題を挙げておきましょう。

(1)就業規則の服務規律と懲戒規程の見直しまたは改定
(2)パワーハラスメントについての相談窓口の設置または運営体制の見直し
(3)パワーハラスメント事案が発生した場合の社内調査と評価方法の策定
(4)被害者の安全確保のについて
(5)当事者のプライバシーの保護対策
(6)パワーハラスメン防止についての社員の啓発と研修計画の策定

今回は、(1)の「就業規則の服務規律と懲戒規程の見直しまたは改定」について話を進めます。

就業規則の服務規律における「遵守事項」の見直しまたは改定

まず、会社として「職場におけるパワーハラスメント禁止」を就業規則の服務規律の遵守事項に明記し、違反した者は懲戒する旨を懲戒規程に盛り込まなければなりません。
大企業ではすでに、職場でのパワーハラスメント禁止を行動基準等に記載しているところが大半ですが、就業規則にはまだ記載してない場合があります。また、これまではパワーハラスメントについての法律的な定義がなかったため、それぞれの会社が自社流の定義をしているケースが見られました。これからは法律上の定義、つまり職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要でかつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」(労働施策総合推進法第30条の2より)を使うか、これを参考に、自社に適したわかりやすい表現で就業規則に盛り込むことが求められます。ちなみに、人事関係者ならご存知のとおり、就業規則には便利なひな型があります。厚生労働省労働基準局監督課が今年3月に発表している最新の「モデル就業規則」には、次のように記載されています。

第○○条(職場のパワーハラスメントの禁止)
職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

また、「モデル就業規則」には他のハラスメントについても記載されています。自社の就業規則にも記載されているかを確認し、抜けているものがあれば改定しましょう。

(セクシュアルハラスメントの禁止)
性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

(その他あらゆるハラスメントの禁止)
以上に規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

いわゆるLGBT等性的マイノリティに対するハラスメント禁止を記載している企業はまだ少ないようですが、「モデル就業規則」にはすでにそこまで記載されています。人材面でグローバル化が進んでいる企業は、この際、盛り込んでおいたほうがよいでしょう。

服務規律の「服務」の見直しまたは改定

次に、現状の服務規律における「服務」の規程がどうなっているかを確認しましょう。

最新のモデル就業規則を見ると、次のとおりです。

(服務)
第○○条 労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。(下線は筆者)

ここでは「会社の指示命令に従い」と記述されていますが、かつては「上長の指示命令に従い」とか「職制の指示に従い」という表現が使われていました。今もそのままの表現を使っている企業もありますが、この際、「会社の指示命令に従い」と改めたほうがよいと思います。なぜならパワハラは、「職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした」パワーが適正な範囲を逸脱して起こるわけですから、「上長の指示命令」とか「職制の指示」という表現では、職務権限が属人的なものに解釈されてしまう危険性があります。

例えば「お前は俺の命令が聞けないと言うのか。そうか、それならお前は就業規則違反だ。懲戒だ」などというパワハラ上司が出てこないとも限らないわけで、「会社の指示命令」と記載しておくほうが安心でしょう。

懲戒規程の見直しまたは改定

続いて、懲戒規程の見直しまたは改定が必要です。日本では1990年代に、多くの企業がまずセクシュアルハラスメント禁止を就業規則に記載するようになり、ここ10数年の間にマタニティハラスメント、育児介護休取得者に対するハラスメント、パワーハラスメント、その他のハラスメントを追記してきた経緯があります。今後も新種のハラスメントが出てくる可能性があり、そこでどのようなハラスメントが出てきても懲戒できる懲戒規程にしておく必要があります。

ハラスメントのなかでも特に悪質なもの、例えば「暴行、傷害、脅迫、名誉毀損など刑罰相当の行為」に対しては、すでにどの会社も就業規則で重い懲戒処分(懲戒解雇や降級など)を科す規程があるはずです。問題は、「ハラスメントのグレーゾーンでも懲戒する場合がある」という趣旨の規程があるかどうかです。そこで懲戒事由の項に、例えば「他人に対して人格と尊厳(名誉)を傷つける行為」と書いておけば、ハラスメントの種類に関係なく、けん責、減給程度の懲戒が可能になります。なぜなら、様々なハラスメントは、不当に他人の人格と尊厳(名誉)を傷つける行為であり、人権侵害の一つであるという点で共通しているからです。

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星野邦夫(ほしの・くにお)
慶應義塾大学文学部卒。帝人株式会社で初代の企業倫理統括マネージャー。2007年度内閣府「民間企業における公益通報者保護制度その他法令遵守制度の整備推進に関する研究会」委員。2009年より一般社団法人経営倫理実践研究センターで「ハラスメント研究会」を主宰。「パワーハラスメント防止」や「会社員の個人不祥事防止」などをテーマに、企業・団体向け研修を多数実施している。一般社団法人経営倫理実践研究センター上席研究員

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