チェック表で点数化~パワーハラスメントを評価するポイント
2019年10月18日更新
職場でパワハラ事案が発生した場合に、会社としてそれをどのように評価・判定すべきかについて考えてみましょう。
パワーハラスメントかどうかの判断が難しい理由
現在、多くの会社では社員の相談窓口が設置されています。「ヘルプライン」とか「ホットライン」「社員相談窓口」などいろいろな言い方がありますが、主管部署はコンプライアンス部署やCSR推進部署、あるいは総務部などで、人事部というのは少ないと思います。
なぜなら、社員相談窓口は、1990年代の後半から2010年頃にかけて、社員からの相談や通報を会社が受けつけることで、不祥事の抑制や発見に努めたいという、コンプライアンス上のねらいの下に設置された経緯があったからです。
各社がいざヘルプラインを開設してみると、ハラスメント、なかでもパワーハラスメントに関する相談が意外なほど多く、それも年々増加の傾向にあります。私どもの会員企業でもパワハラに関する相談比率は、少ない会社でも3割、多い会社では7割と聞きます。
それだけ多いにもかかわらず、相談窓口の担当部署は、これまでパワハラ事案の評価と対応にたいへん苦労してきました。
セクシュアルハラスメントについては、防止のための措置義務がすでに法律化されて(2007年男女雇用機会均等法の改正)、国によって指針や判断基準までが示されていたのに比べ、パワーハラスメントの法律的な定義がなかったことに加えて、公的な判断基準も示されていなかったためです。
わずかに公的な手掛かりとなったのは、2011年度に厚労省が主宰した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」の報告書にある「厚労省のパワーハラスメントの定義」と「パワーハラスメントの6類型」くらいでした。
「パワハラチェック表」で点数化
そこで筆者は、「パワーハラスメント」という言葉の命名者であり、円卓会議の主要メンバーの一人でもある岡田康子氏のパワーハラスメントの定義(2011年)を参考に、さらに法律的なレベル感を加えた「パワハラチェック表」を開発しました。
そのねらいは、以下のとおりでした。
1)違法な領域をレッドゾーンとし、違法とまでは言えないが企業として倫理的に問題である領域をイエローゾーンとして扱う。
2)イエローゾーンは、パワハラか指導かを二者択一で割り切ることは難しいので、パワハラの程度を定量化(点数化)して評価する。
3)「パワハラ行為かどうか」(つまり、行為の妥当性)と、「パワハラ行為を受ける者への影響はどうか」(つまり、影響の妥当性)とを、切り離して評価する。
4)不適切部分がどこにあるかを把握して、パワハラ行為者の改善や指導に役立てる。
筆者が(一社)経営倫理実践研究センターのハラスメント研究会で、「パワハラチェック表」を使ってパワハラ事例を評価する手法を提案したところ、多くの会員企業の支持を得ることとなり、現在まで数十社が自社のマネジメントの中で「パワハラチェック表」を取り入れています。さらに、その手法と適用事例50ケースを2014年、PHP研究所より『実践コンプライアンス パワーハラスメント編』として発刊したところ大きな反響がありました。
便利なツールでパワハラを客観的に評価
「パワハラチェック表」は筆者が2014年に発表したものですが、今年成立したいわゆる「パワーハラスメント防止法」における定義、およびこの法律策定の重要な根拠となった厚労省主宰の有識者会議「パワーハラスメント防止対策会議」(平成30年度3月公表)の議論等を踏まえ、一部の表現を改訂しました。しかし、基本的な考え方と枠組みは変わっていません。
(注)まず、①のレッドゾーンに該当するかどうかを検討。法律判断なので、ここだけは〇か×か、二者択一です。①に該当しなかった場合は、②以下のイエローゾーンに進みます。②以下は、該当すれば〇=1.0 半分該当すれば△=0.5 該当せずは×=0.0として合計点で評価します。
パワハラの評価に基づいて会社の対応を決める
パワハラチェック表の評価結果に基づき、以下のような4つのレベルに仕訳します。
これによって、行為者への懲戒や指導、また被行為者への扱いなど、会社の対応が決まってきます。
ただし、ここで特に注意をしなくてはならないことがあります。人の感じ方は一様ではなく、どれだけ客観的に評価しようとしても個人差が出てしまうものです。ですから評価する立場にいる人は複数で、できるなら3~4人の担当者で評価を行い、十分なディスカッションを経て評価を固めるという作業が必須です。さらに、コンプライアンス部署と人事部との情報の共有化、および評価のレベル合わせもきわめて重要です。
「パワハラチェック表」は、最近スポーツ界で頻発しているスポーツパワハラについても十分に応用できるものです。今年7月にPHP研究所より発刊された『実践!グッドコーチング ~暴力・パワハラのないスポーツ指導を目指して~』(執筆協力:星野邦夫)においても利用されています。
星野邦夫(ほしの・くにお)
慶應義塾大学文学部卒。帝人株式会社で初代の企業倫理統括マネージャー。2007年度内閣府「民間企業における公益通報者保護制度その他法令遵守制度の整備推進に関する研究会」委員。2009年より一般社団法人経営倫理実践研究センターで「ハラスメント研究会」を主宰。「パワーハラスメント防止」や「会社員の個人不祥事防止」などをテーマに、企業・団体向け研修を多数実施している。一般社団法人経営倫理実践研究センター上席研究員