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ケーススタディ~営業所長のパワハラレベルを判定する

ケーススタディ~営業所長のパワハラレベルを判定する

(2019年10月31日更新)

 
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パワハラの評価方法と、会社としての対応を学ぶケーススタディです。ある営業所で発生した実際のパワハラ事案について、チェック表を使って点数化し、パワハラのレベルを判定してみましょう。

 

パワハラによる損害賠償請求の事例

まず、次のケースを読んで、下のパワハラチェック表であなたなりの評価をしてください。評価にあたっては、前回記事「チェック表で点数化~パワーハラスメントを評価するポイント」の内容が参考になります。

 

ケース営業所長からeメール「辞めてもらって結構」

ある営業所で顧客クレーム処理件数のパフォーマンスが悪い課長代理に対し、営業所長から突然eメールが届きました。「○○さん、あなたはとにかく仕事が遅い。営業担当者の平均処理件数は月間16件なのにあなたは8件。課長代理がこんなことでは示しがつきません。みんなが迷惑しています。やる気がないなら辞めてもらって結構。あなたのような人を給料泥棒と言うのです」と。赤字や太字で強調されたそのeメールは、CCで営業所全員に送られていました。

「課長代理に上がってくる事案は一般職では判断が難しい事案なのに、そこを無視してこのようなeメールを送り、自分をさらし者にするような営業所長は許せない」と思った課長代理は、なんと名誉毀損またはパワハラによる損害賠償を請求して裁判所に訴え出ました。

 

パワハラチェック表

パワハラチェック表
 

パワハラチェック表で点数化

営業所長の言動に対する筆者の評価は次のとおりです。

パワーハラスメントチェックリスト

①明確な違法行為または違法行為の強要か

業務上のパフォーマンスの悪さを叱責したことであり、eメール共有化範囲は営業所内限定なので、課長代理の社会的評価を下げる名誉毀損罪相当とまでは言えないでしょう。よって×となり、レッドゾーンには該当しません。

②業務上の優位性を背景にしているか

営業所長と課長代理の関係なので、該当して〇です。

③業務上の要求として適正な範囲を超えているか

課長代理の言い分を聞くこともなく、「やる気がないなら辞めてもらって結構」というのは、業務の適正な範囲を超えており、「いきなりの退職勧奨」ともいうべき過大な要求です。よって、該当で〇です。

④手段や態度が人格と尊厳を侵害する言動か

「給料泥棒」と言ったり、営業所全員に太字や赤字で強調したeメールを送ったりする言動は、人格と尊厳を侵害する言動(精神的攻撃)です。よって、該当で〇です。

⑤継続的または執拗か

1回限りのeメールですが、eメールはパソコン上に残るものなので、やや継続的と考えて、△です。

⑥被行為者に心身の苦痛を与えているか

一会社員が上司を相手取り裁判を立ち上げるという行為は、強い憤り(精神的苦痛)の表れともいえるので、該当して〇です。

⑦職場の就業環境を悪化させているか

この文面では周りの人に関する記述が一切ないので、不明とします。憶測に基づく評価はしないことが大事です。もちろん、会社としては周りの人に対するヒアリング調査が必要です。

 

→〇は1.0、△は0.5、×は0.0として、以上を合計すると4.5となります。

 

パワハラレベルの判定と会社としての対応

次に、点数に基づき、下の表でパワハラレベルを判定してみましょう。

 

パワハラ評価と会社の対応

 

今回のケースは4.5、つまりレベルⅢ(4.0以上:パワハラと言うべきレベル)になりました。レベルⅢとは、強い指導または懲戒処分が必要なレベルです。

多くの会社の人事部では、「指導」または「けん責」程度の扱いになるかと思いますが、「この程度のことは、昔は当たり前だったのに」と軽く考えてはいけません。「職務権限の遂行」と「人権の尊重」を両立させなければ、21世紀のビジネスはないからです。

 

裁判に至る前に解決をするのがベター

裁判に訴え出た課長代理の行為はいかにも唐突に見えますが、このような事態を引き起こした営業所長の軽率で乱暴なeメールの責任は、パワハラチェック表の評価からも明らかなようにさらに重大で、会社としては、営業所長に対し、強い指導または懲戒処分が必要でしょう。そもそも、営業所長が課長代理を呼んで個別に話し合いをしていれば、裁判などには至らなかったはずですし、会社も事前に指導すべきでした。

なお、本事案に酷似した裁判例(※)がありました。そこでは、被告(所長)の言動は刑法上の名誉毀損罪には当たらないが、原告(課長代理)の名誉心を著しく傷つける行為であり、不法行為(損害賠償責任が発生)にあたるとして、慰謝料5万円が被告に命じられました。原告は心身ともに健康な状態を維持しており、損害はあまり大きなものではなかったと見られたようです。もしも原告が精神障害に陥り、就業できないような状態であったならば、過去の判例から類推して、慰謝料は十倍以上になったと思われます。

この事件は、原告が上司を訴えたのであって、会社を訴えたものではありません。にもかかわらず、判例集には会社の名前が付けられ、パワハラの典型例として長く周知されることになりました。有名企業ゆえのつらいところです。よくよく心しておきましょう。

 

次回はパワハラ防止のマネジメントについてお話しします。

 

(※)M保険上司事件 東京高判 平17・4・20 労働判例914号82頁

 

コンプライアンス教材

 


 

星野邦夫(ほしの・くにお)

慶應義塾大学文学部卒。帝人株式会社で初代の企業倫理統括マネージャー。2007年度内閣府「民間企業における公益通報者保護制度その他法令遵守制度の整備推進に関する研究会」委員。2009年より一般社団法人経営倫理実践研究センターで「ハラスメント研究会」を主宰。「パワーハラスメント防止」や「会社員の個人不祥事防止」などをテーマに、企業・団体向け研修を多数実施している。一般社団法人経営倫理実践研究センター上席研究員


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