コーチングの質問が詰問にならないように!
2012年12月 7日更新
コーチングにおける「質問のスキル」について、通信ゼミナール『コーチング実践コース[質問スキル編]』から学ぶシリーズの第3回。「質問が詰問になっていないか」をテーマに解説しています。
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「人」と「事」を分ける
「なんでこんな問題を起こしたんだ?」「どうしてこの目標が達成できないんだ?」などといった問いかけを多用する上司をよく見かけます。
ほんとうに言いたいことは「君は、こういう問題を起こすべきではなかった」「あなたには、この目標を達成してほしいと期待していた」といったメッセージを、疑問文を使って表現する癖と言えるでしょう。
しかし、このような疑問文には答えようがありません。「なぜ、どうして」という言い回しには、相手を責める気持ちが反映しています。
質問された人が、「自分が責められている」と感じてしまうと、「一生懸命やったのですが」「お客様が予想以上にいらしたので」というように、言い訳、弁解、自己正当化といった、防衛的な答えが返ってくる可飴性がきわめて高くなります。
ボールをぶつけるように質問すれば、「避ける、はらおうとする」のが、自然な反応です。その意味でも、「なぜ」「どうして」というかたちの質問は、上司として要注意の表現だと言えるでしょう。
では、「相手を責めている感じにならない」ように、原因を探求するためには、どうしたらよいでしょうか。たとえば、次のように「人」と「事」を分ける言い方が効果的です。
人 「どうして君は目標を達成できなかったのだ?」
事 「目標が達成されなかった原因は何かな?」
人 「なんで君はこんな問題を起こしたのだ?」
事 「こういう問題が起こった理由は何だろう?」
「人の質問」は、質問を受けた人にとっては、自分が責められているように感じがちです。そうすると、防衛的な反応が引き出されてしまいます。
他方、「事の質問」は、ある程度、事態を客観的に見ることができます。自分が批判の的、矢面に立っていないときには、ある程度冷静な分析が可能になるわけです。
責めても人は変わらない
部下は、上司の望む方向には変わらないのが普通です。相手の弱点や欠陥を批判するのは簡単ですが、どのように改善すべきかの方向性を示さない限り、行動を変えようがありません。また、どんなに素晴らしい改善提案をしたとしても、相手がそれを受け入れて納得してくれなくては、結果につながらないわけです。
私の師匠である伊藤守さんは、「コミュニケーションはキャッチボール」(TM)と言っています。これは、比喩というよりは、実際に、人と人の間に「気」とか「エネルギー」のやりとりが行われている、と私は考えています。
キャッチボールであれば、相手が取りやすいところに、取りやすいタイミングで、取りやすい強さのボールを投げるのが基本です。
人それぞれ、その人なりの成長というものがあります。上司が自分を基準として見ると、まだまだだと思えても、部下本人にしてみれば大きな成長・進歩である場合もあります。あくまでもその人の立場で見てあげることが大切です。
たとえば、30点しかとれなかった人がその人なりに頑張って40点になったとします。マイナスから見れば70が60になっただけですが、プラスのほうから見れば、33パーセントの大きな改善です。
相手の立場で成長を認めてあげれば、自ずとやる気が出てくるものです。その人の基準、その人の「ものさし」を認め、そのうえで接してあげることが大事なのです。
コーチングの考え方にもあるように、「認」、相手の良いところを見つけて、心にとめてあげれば、やる気を生み出すことにもつながっていく場合があります。わずかな成長であっても、相手の進歩・上達を認め、ほめてあげることから始めるとよいでしょう。
相手にレッテルを貼らず、傷つけない言葉・表現を
過去の経験からものごとを判断できると、迅速な行動にもつながり、仕事を円滑に進めるうえで有効な場合があります。しかし、過去の失敗などから相手のことを「あいつはいつも…」と決めつけてしまうのは、避けなければなりません。月日が経って相手が成長していることも十分考えられるわけで、相手の可能性をつみ取ってしまうことにもなりかねません。とくに、世代の異なる部下に対して、その傾向が強くなりがちですので、注意が必要です。
職場などで、「女の子はこれだから、任せられないんだ」「若いやつは、礼儀を知らないからな」「派遣社員だから責任感が……」などと、つい十把一絡げの表現を使ってしまう人がいますが、それでは個々の相手の良さを引き出すことはできませんし、相手から信頼を得ることもできません。
また、「君は軽率だ」という言い方も、レッテルを貼った表現と言えます。相手の行動すべてが軽率なわけではないでしょうから、「君のあのときの行動は軽率だった」という時間限定を加えた表現にしたり、どの行動のどの点が問題であったかということに踏み込むようにすることが大切です。「君はいつだって」「いつもいつも君は」「君はおっちょこちょいだから」というのも同様です。
一人ひとりは違うのですから、カテゴリーでくくってしまわないことです。固定観念を押しつけて、一人ひとりの個性を見ないようでは、適材適所の仕事を与えられなくなります。個人差を受け入れない考え方は、コーチングとは相容れません。
本間正人 ほんままさと
NPO法人学習学協会代表理事、帝塚山学院大学客員教授
東京大学文学部社会学科卒。松下政経塾第3期生。
ミネソタ大学で成人教育博士号(Ph.D.)を取得。
米国Coach UniversityのCTP課程を日本人として初めて修了。
教育学を超える「学習学」を研究する一方で、国際コーチ連盟認定プロフェッショナルコーチ、NPO法人日本コーチ協会理事として、日本でのコーチングの普及を目指す。
著書は『ケーススタディで学ぶ「コーチング」に強くなる本』、『コーチング一日一話』(共著)、『適材適所の法則』(ともにPHP研究所)など多数。
http://www.learnology.co.jp
通信ゼミナール
『コーチング実践コース[質問スキル編]』
管理職・監督職の方を対象にして、コーチングスキルの中でも特に活用の場面が多い「質問のスキル」を中心に、コーチングの考え方やコミュニケーションのとり方を学ぶコースです。培った知識を実践に活かし、自身に合った部下指導のレパートリーを広げることができます。