ジョブクラフティングとは? 期待できる効果や実践方法を解説
2024年4月 3日更新
「ジョブクラフティング」とは、やりがいや生産性を高めるために仕事に対する認識を見直すことです。ジョブクラフティングについて聞いたことはあるものの、具体的なやり方を知らない方もいるのではないでしょうか。この記事では、ジョブクラフティングについて概要や効果、おすすめの研修プログラムなどについて解説します。
INDEX
ジョブクラフティングとは
ジョブクラフティングとは、それぞれの社員が主体的に認識や行動を変えることで、仕事をやりがいのあるものへと創り変えていく手法のことです。
ジョブクラフティングには似たような意味の言葉が存在するため、認識が曖昧な方もいるでしょう。以下では、ジョブクラフティングの意味や、ジョブデザインとの違いについて詳しく解説します。
「ジョブクラフティング」の意味
ジョブクラフティング(Job Crafting)は、社員が自身の仕事を主体的に捉え、自分らしさや取り組み方の工夫などを加えてやりがいのあるものへ創り変えていく手法を意味します。上司や先輩などの指示による受け身の業務は、「やらされている」という感覚になり、モチベーションの低下につながる要因の1つです。そうなるとパフォーマンスが下がり、業績の低下という結果を招くこともあるでしょう。
ジョブクラフティングを採り入れることで社員一人ひとりが自身の仕事を再定義し、自分なりの価値を生み出すことにつながります。
ジョブクラフティングとジョブデザインの違い
ジョブデザインとは、社員が仕事にやりがいを持って働けるように、会社が仕事の設計や業務内容の見直しを行うことです。社員のモチベーションを高めるという点では、ジョブクラフティングと共通しているといえるでしょう。
ジョブクラフティングは社員が主体となって仕事のやりがいを見つけるところ、ジョブデザインの場合は会社が主体で社員のモチベーションに働きかけるように行動するという点で違いがあります。
ジョブクラフティングが注目を集める理由
ジョブクラフティングが注目を集める理由には、2つの要因があると考えられています。
- 「VUCA(ブーカ)時代」への突入
- 働き方の多様化
人々の価値観や社会環境の変化によるものが大きいことがわかるでしょう。それぞれの変化に柔軟に対応するために、ジョブクラフティングは注目されているのです。以下では、それぞれの理由について詳しく解説します。
「VUCA(ブーカ)時代」への突入
ジョブクラフティングが注目された理由には、社会が「VUCA(ブーカ)時代」へ突入し、企業を取り巻く環境が大きく変化したことが挙げられます。物事の不確実性が高く、先の見通しが困難な社会環境の中で、顧客ニーズの多様化やトレンドの流動化など、社会構造や価値観の変化などが起こっているためです。
社員が指示された業務を実行するだけでは、それらの環境の変化に対して企業は迅速に適応できません。VUCA時代ゆえに起こりうる、さまざまな問題を乗り越えて企業が勝ち残るためには、社員一人ひとりが自ら思考し、主体的に動くことが求められます。
働き方の多様化
働き方が多様化したことも、ジョブクラフティングが注目される理由となっています。日本の企業で当たり前とされていた終身雇用や年功序列が見直され、与えられた仕事をただ実行するだけではキャリアアップが困難になりました。そのため、主体性を発揮できるようなやりがいのある仕事が求められるようになっています。
自身の仕事に価値を見出す手法としても、ジョブクラフティングの重要性が増しているのです。
ジョブクラフティングに必要な3つの視点
ジョブクラフティングは、以下の3つの視点で捉えることが大切です。
- 作業クラフティング
- 人間関係クラフティング
- 認知クラフティング
ジョブクラフティングにおいて、上記で挙げた視点が1つでも欠けると成果が出ない可能性があります。社員が自身の業務に落とし込んで行動化できるよう、それぞれの視点について理解しましょう。
作業クラフティング
作業クラフティングは、業務への取り組み方を追求し、仕組みの構築や改善をしていくための視点です。自身が業務に取り組みやすい環境が整うことで、結果として現場の生産性を向上することが期待できます。たとえば、仕事を効率化するために業務プロセスを見直し、必要に応じて作業の追加や省略をすることが挙げられるでしょう。
作業クラフティングは単に業務内容のみに注目するのではなく、目標設定や心身の負担など多面的に考えながら、自分が理想とする働き方ができるような工夫が必要です。
人間関係クラフティング
人間関係クラフティングは、仕事で関わる人間関係をより良いものにするための視点です。上司や同僚、部下などとの情報共有やアドバイスなど、積極的なコミュニケーションを取ることが挙げられます。テレワークの導入などにより社内の人間関係が希薄化しているものの、業務の質を高めるためには円滑なコミュニケーションが欠かせません。
人間関係クラフティングによって社員同士が協力関係を築き、足りない部分を補完し合いながら業務を進められるでしょう。また、社員のフィードバックによってほかの社員のモチベーションを引き出し、高い意識を持って業務に臨めます。
認知クラフティング
認知クラフティングとは仕事の質や内容だけではなく、自分の業務がもたらす社会的な価値や貢献度など、仕事に対する認知そのものの捉え方を改善することです。個人的な意義だけではなく、成果が社会の役に立っていることでやりがいを感じやすくなります。
また認知クラフティングは仕事にやりがいを持つことで自信につながり、取引先や顧客にも自社の魅力を積極的にアピールしやすくなるというメリットもあるのです。業務を多角的に捉えて自分の関心と結びつけることで、仕事に対するモチベーションの向上につながることが期待できるでしょう。
ジョブクラフティングの取り組みに影響を与える要素
ジョブクラフティングは、職務の特性や職場環境、個人の特性によっては、取り組みづらいと感じることもあります。取り組みに影響を与える要素について見ていきましょう。
ジョブクラフティングは、職務の特性や職場環境、個人の特性によっては、取り組みづらいと感じることもあります。取り組みに影響を与える要素について見ていきましょう。
職務の特性
自身で仕事の内容を決められる社員は、ジョブクラフティングに取り組みやすいといえるでしょう。逆に仕事に自己裁量の余地がない場合は、自身の判断で柔軟に行動できないため、ジョブクラフティングに対する取り組みの幅が限定的になってしまいます。職場によって仕事の内容や進め方が異なるため、どのような特性があるのかを事前に把握しておくことが大切です。
職場環境要因
上司や先輩、同僚など、周囲からサポートを受けやすい職場は、ジョブクラフティングに取り組みやすいといわれています。たとえば、上司や先輩、同僚と会話できる機会が多い職場は、周囲から仕事のアドバイスをもらいやすく、それが結果的に成果につながり、仕事に対するやる気が向上するため、ジョブクラフティングに取り組みやすくなります。
個人要因
上司から指示されたこと以外、仕事に変化を持たせてはいけないといった考えを持つ社員は、枠から外れることに抵抗を感じて、ジョブクラフティングに消極的になることが多いといわれます。逆に、考え方が前向きで、仕事に対する取り組み方を常に改善していきたいと考える社員は、ジョブクラフティングに取り組みやすいでしょう。仕事の目的や意義を捉え直し、自分の興味や関心と結びつけて考え、自分らしく取り組むことでやりがいが生まれ、好循環を創り出すことができます。
ジョブクラフティングによる4つの効果
ジョブクラフティングを導入すると、以下の4つの効果が期待できます。
- 従業員の定着率が向上する
- 新たなアイデアの創出につながる
- 生産性が向上が期待できる
- リーダー育成につながる
組織力を向上するためには、どれも欠かせないポイントです。ここからは、ジョブクラフティングがもたらす効果について、それぞれ詳しく解説します。
従業員の定着率が向上する
ジョブクラフティングを導入することで、社員の定着率が向上することが期待できます。それぞれの社員が仕事にやりがいを見出すことで、モチベーションや自社への帰属意識が高まるためです。
給与面や待遇面以外にも、自身の担当業務に誇りややりがいを持つことで、長く働く意識が自然と醸成されるでしょう。企業にとっても、新たな人材の採用・育成にかかる手間やコストがかからなくなるメリットがあります。
新たなアイデアの創出につながる
ジョブクラフティングにより、社員が能動的に仕事に取り組む意識が生まれることで、新しいアイデアの創出につながるメリットがあります。現場からマネジメント層まで、あらゆる場所で闊達な意見が交換されやすくなるためです。
革新的なアイデアが生み出されれば、市場環境の変化への柔軟な対応やイノベーションの創出、競合他社との差別化を図ることにも期待できます。
生産性の向上が期待できる
ジョブクラフティングは、組織全体の生産性が向上する効果が期待できます。それぞれの社員の仕事との向き合い方が変わり、より良い仕事になるよう業務改善がされていくためです。たとえば、業務をスムーズに進めるため、簡略化できるプロセスを提案することなどが挙げられます。
社員が業務改善や問題意識を持って仕事に取り組む土壌が構築されていることで、結果的に全体の生産性向上につながるでしょう。組織力が強化され、市場環境の変化からくる組織改革にも対応しやすくなります。
リーダー育成につながる
ジョブクラフティングは、リーダーの育成にもつながる効果があります。個々の社員が主体的に仕事に取り組む姿勢が定着し、リーダーシップが身につくためです。自分の仕事に対する責任感はもちろん、周囲への働きかけや業務改善などの意識を持つことで、自然とリーダー育成の過程を進んでいきます。
また、ジョブクラフティングは、自分が仕事の目標達成するために何をすべきか計画し、実行することも取り組みの1つです。マネジメントスキルや判断力、実行力など、リーダーに必要な資質が磨かれることも期待できるでしょう。
ジョブクラフティングを測る尺度
京都大学の・関口倫紀教授の研究によると、質問紙でジョブ・クラフティングを測定するには、タスク、人間関係、認知度といった3つの尺度があるとされています。以下にご紹介しましょう。
タスク
- 1.仕事をしやすくするために必要な作業を追加したり不必要な作業を減らしたりする
- 2.必要と感じれば新たな作業を自分の仕事に加える
- 3.仕事の中身や作業手順を自分が望ましいと思うように変更する
人間関係
- 4. 仕事を通じて積極的に人と関わる
- 5. 仕事を通じて関わる人の数を増やしていく
- 6. 仕事で関係する人々の状況を把握し、相手の便宜をはかる
認知度
- 7. 自分の担当する仕事を見つめ直すことによって、やりがいのある仕事に見立てる
- 8. 自分の担当する仕事を単なる作業の集まりではなく、全体として意味のあるものだと考える
- 9. 自分の担当する仕事の目的がより社会的に意義のあるものであると捉えなおす
※引用元:人的資源管理研究│京都大学関口研究室「ジョブ・クラフティング尺度」
【企業向け】ジョブクラフティングの導入方法4ステップ
ジョブクラフティングを職場に導入するためのステップは、次のとおりです。
- 1.ジョブクラフティングの概念や実践方法を紹介する
- 2.ジョブクラフティングの研修プログラムを実施する
- 3.ジョブクラフティングについて考える時間を設ける
- 4.実行と検討を繰り返し行う体制を作る
それぞれのステップを詳しく確認していきましょう。
1.ジョブクラフティングの概念や実践方法を紹介する
ジョブクラフティングを普及させるには、どのような概念であるかを社員に正しく理解してもらう必要があります。ジョブクラフティングの概念や実践方法をしっかりと社員に周知しましょう。この際、得られる効果も合わせて伝えると前向きに取り組めます。
2.ジョブクラフティングの研修プログラムを実施する
ジョブクラフティングの概念や実践方法を周知するには、社員研修を実施するのが有効です。研修プログラムでは、基礎知識や事例を紹介したり、グループワークを通して情報を共有したり、計画立案のサポートをしたりなど、ジョブクラフティングの理解を深める機会を与えます。研修プログラムは、職種や階層別におこなうことも可能です。
ジョブクラフティングのワーク手順
研修プログラムの内容例は次のとおりです。
- 講義:ジョブクラフティングとは? 定義、効果、企業事例など
- ケーススタディによるワーク
- ジョブクラフティングの計画策定
- 計画カード作成
講義では、ジョブクラフティングに関する基礎知識や企業事例を紹介します。ケーススタディでは、実際の事例を用いてジョブクラフティングを考えてもらう時間を設けましょう。計画づくりでは、日常業務を振り返って社員自身ができるジョブクラフティングを考えさせます。最後の計画カードづくりでは、各自のジョブクラフティング計画をカードに記入させて実行可能性を高めましょう。
3.ジョブクラフティングについて考える時間を設ける
自身の業務に対して、どのようにジョブクラフティングを実施できるのかを考える時間を作りましょう。社員一人ひとりがジョブクラフティングについて考えることで、主体的に行動できる意識改革につながります。グループワークで意見を共有すれば、さらに良いアイデアを見つけられるはずです。
4.実行と検討を繰り返し行う態勢を作る
個人ワークやグループワークなど、研修での学びを振り返る機会を与えましょう。振り返ることで考えを整理し、定着させることができます。グループワークを実施すれば、より実行しやすく前向きな気持ちにつながります。また、実際に実行したあとにも振り返りによって、ジョブクラフティングをアップデートすることが大切です。
ジョブクラフティング成功のコツ
急に仕事への向き合い方を変えるのは難しいため、途中で挫折してしまうおそれがあります。ジョブクラフティングをうまく取り入れるには、身の回りの些細な要素から少しずつ変えていくことが大切です。最初は少しでも、積み重なれば大きな変化になります。
また、会社の慣習や前例にとらわれないことも重要です。これまでのやり方が必ずしも良いとは限りません。より効率的な方法や意欲的に取り組めるやり方があるならば、思い切って変えてみましょう。
ジョブクラフティング導入時に企業が注意すべき3つのこと
企業も社員も得られるメリットが多いジョブクラフティングですが、取り組み方を間違えるとトラブルが起こるおそれもあります。場合によっては、社員を追い詰めてしまうため、注意してジョブクラフティングを取り入れることが必要です。ジョブクラフティングに取り組む際に企業が注意すべきことには、次のようなポイントがあります。
- 社員が業務を見つめ直す場を設ける
- 「やりがいの搾取」にならないようにする
- 仕事が属人化しないよう対策を行う
それぞれのポイントを確認していきましょう。
社員が業務を見つめ直す場を設ける
ジョブクラフティングを実施するにあたって、上司が自分の考えを無理やり部下に押し付ける場面がよく見られます。
そういう状況では、部下が抵抗を感じて主体性を発揮できなくなります。人事部門では、社員が自らの業務を見つめ直す場を設け、主体的に取り組めるように環境を整えてあげましょう。
やりがいの搾取にならないようにする
ジョブクラフティングは、あくまで社員自らが進んで仕事にやりがいを見出すための手法です。企業が仕事のやりがいを社員に押し付けてしまうと、いわゆる「やりがい搾取」につながるおそれがあります。こうした状況を放置してしまうと離職する社員が増えたり、ブラック企業の烙印を押されて採用活動に支障を来すことがあるため注意しましょう。
※参考:「やりがい搾取」とは? 陥りやすい業界・職種、予防のたのチェックポイントも紹介
仕事が属人化しないよう対策を行う
ジョブクラフティングで注意したいのは、仕事の属人化です。属人化とは、業務の手順や進捗状況などを担当者しか把握できていない状況を指します。担当者しか業務の手順や進捗状況がわからないため、担当者が退職してしまうとほかに誰も対応できません。
属人化は、社員個人の成長につながるかもしれませんが、組織として望ましいとはいえない状態です。企業は、仕事が属人化しないための対策をおこないましょう。
まとめ:ジョブクラフティングをやりがいにつなげるために
ジョブクラフティングは、一人ひとりの社員が自らの仕事に主体的に取り組み、仕事のやりがいを見出す有効な手法です。特に近年は、働く人の価値観の変化や、離職率の高止まりといった状況を受けて、社員のモチベーション向上を目指してジョブクラフティングに取り組む企業が増えています。
ジョブクラフティングは、やり方を間違えると、さまざまな問題が起こる可能性も否定できません。業務の属人化ややりがい搾取など望ましくない状況になることも考えられるため、推進する人事部門には、研修をやって終わりというのではなく、現場の状況を見守っていく態勢が求められます。