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「やりがい搾取」とは? 陥りやすい業界・職種、予防のたのチェックポイントも紹介

2023年4月 4日更新

「やりがい搾取」とは? 陥りやすい業界・職種、予防のたのチェックポイントも紹介

やりがい搾取とは、従業員のやりがいを利用して長時間労働などに従事させる行為です。やりがいは従業員のモチベーションを高める大事な要素ですが、過度に煽って不当な労働行為を行うことは企業イメージを損ねることにもなります。本記事ではやりがい搾取の内容や陥りやすい業界、職種、防止策などを解説します。

INDEX

「やりがい搾取」とは

「やりがい搾取」とは、労働者の「やりがい」を利用して長時間労働・低賃金で業務を行わせ、利益を搾取する行為です。やりがいとは、物事に対する充実感や手応えがある状態を指します。同じ仕事をしていても、何にやりがいを感じるかは人それぞれです。その人の価値観や考え方により異なります。「搾取」とは、生産手段を持つ者が持たない者を必要以上に労働させ、発生した余剰労働の成果を無償で取得するという意味です。ここでは、やりがい搾取の意味や言葉が生まれた背景について解説します。

過酷な労働環境を指す造語

やりがい搾取とは、従業員が仕事に対して感じる充足感や手応えを利用し、必要以上に労働させて余剰労働の利益を得ることです。やりがい搾取という言葉は、労働者の過酷な労働環境を表す造語です。教育社会学者の本田由紀氏が著書などで使い、一般に広く認知されるようになりました。太田氏は著書のなかで、近年問題になっている労働者の長時間労働は、やりがい搾取によるものと論じています。長時間労働は一見すると自己実現的な「働きすぎ」に見えるものの、実は企業が意図的に作り出している側面があると指摘しているのです。

参考文献:本田由紀著『軋む社会---教育・仕事・若者の現在』河出文庫(2011年6月4日刊行)

やりがい搾取が生まれた背景

やりがい搾取という言葉が生まれ、広く認知された背景には、いわゆる「ブラック企業」の横行があげられます。若年層の労働者を「安く使える労働力」と考え、搾取しているのです。また業界構造が原因になっている場合もあります。やりがい搾取が生まれた背景について、さらに詳しくみてみましょう。

人件費の削減

やりがい搾取が生まれる背景として、ブラックと呼ばれる企業の存在があります。ブラック企業に明確な定義はありませんが、長時間労働や低賃金など違法な労働環境のもとに労働者を従事させ、心身を危険な状態におく企業のことを指します。ブラック企業は人件費の削減により利益を上げることを目的に、「やりがい」を利用して過酷な労働環境を労働者に強いているのです。

経営状況の悪化で人件費の削減が必要になり、意図的にやりがい搾取を行う企業もあります。「この仕事は社会に貢献する」「給料以上のやりがいを得られる」といった美辞麗句で低賃金による長時間労働に従事させ、利益を上げるのです。「名ばかり管理職」が増えているのも、やりがい搾取の結果と言えます。名ばかり管理職とは肩書きだけ与えられた管理職のことで、残業代なしに長時間労働をさせることを目的に登用されます。管理職に任命されたという労働者のやりがいや使命感、責任感を利用し、やりがい搾取を行っているのが実態です。

業界構造

封建的な構造になっている業界や企業も、やりがい搾取が生まれやすくなります。上下関係を重視し、経営者や管理職の指示・命令は絶対という風潮がある組織です。典型的な例が、職人・料理人など師弟関係のある業界です。一人前の技術を身につけさせるために、弟子のうちは低賃金かつ長時間労働になりやすく、気づいてみればやりがい搾取になっていたということもありえます。

「やりがい」という内発的動機づけ

やりがい搾取が問題とはいっても、やりがい自体は仕事の成果や満足度に直結する重要なファクターです。問題があるのは、やりがいを利用して労働搾取を行う行為であり、やりがいという内発的動機づけをどう行っていくかは、人事における重要課題であることはまちがいありません。従業員がやりがいを感じることで、仕事のモチベーションも上がり、生産性も向上するのです。

社会に貢献できることに喜びを感じ、夢や希望を持って働くことは尊いことです。やりがいをもって業務に取り組む従業員は会社にとって大切な存在です。そのためにも、その働きにふさわしい報酬を適正に与えなければならないはず。しかし、正当な対価を支払わず長時間勤務を強いるようなことがあれば、それはやりがい搾取と言われても仕方がありません。

やりがい搾取に陥りやすい業界・職種

やりがい搾取は、陥りやすい傾向のある業界・職種があるようです。アルバイトが集まりやすい接客業や、やりがいや社会的使命感を得られやすい介護・教育業などがあげられます。また、営業職やクリエイターなどもやりがい搾取になりやすい仕事かもしれません。ここでは、一般的にやりがい搾取に陥りやすいとされる業界・職種について考えてみます。

接客業

コンビニや飲食店などの接客業は、やりがい搾取が起こりやすい業界といわれます。アルバイトが集まりやすく人の入れ替わりも激しいため、労働環境に問題があっても改善する機会が少ないのが実情です。また、接客業は土日や深夜まで営業するところも多く、営業時間がどうしても長くなる傾向にあります。労働時間が長いうえに残業も多くなりがちです。やりがい搾取が起きやすい環境といえるでしょう。

また、接客業では、居酒屋やコンビニなどの店長もやりがい搾取がおこりがちです。店長は仕入れ業務やアルバイト従業員の管理など、店の運営全般を担います。責任感をもって働いているうちに、いつのまにか過剰労働になっていたということがおきかねません。「店長は管理監督職だから長時間働かせても残業代を払わないでよい」という誤った認識をしている事業主もあるようです。

介護・保育・教育業

介護・保育・教育業はやりがいを実感できる仕事で、特に介護や保育は人手不足が深刻化しています。労働に見合わない低賃金でも、納得して働いている労働者は少なくありません。介護スタッフは社会的な使命感をおぼえやすく、介護する相手との関わりが深まるなどで賃金の低さを受け入れて働くケースも多くなります。「人の役に立っている仕事」という意識から、やりがい搾取に陥りがちです。また、介護や保育士は育児・家事労働の延長として見られやすく、スキルが軽視される傾向すらあります。大きな責任を伴う割には低賃金で、重労働を行う場面も少なくありません。結果としてやりがい搾取を生みやすい環境といえるでしょう。

教育業でもやりがい搾取に陥りやすいとされるものの一例として塾講師があります。「生徒を合格させるため」というやりがいにより、授業時間以外にも保護者相談や授業の準備、入塾説明などの業務に追われます。これらの仕事が賃金に反映されず、サービス残業化してくると、やりがい搾取になってしまいます。

営業職

ノルマが課される営業職も、やりがい搾取に陥りやすくなります。目標を達成したときの高揚感で仕事に強いやりがいを感じ、ワーカホリックになりやすいためです。ノルマを達成するためには長時間労働や残業は当たり前と考え、これまた納得して働く傾向にあります。成績上位を目指して、従業員が残業代が出なくてもむしゃらに働くこともあるでしょう。ノルマを達成できず給与が上がらない場合は自分の努力が足りないと感じ、低賃金に納得して働き続けることもあります。

クリエイター

アニメ制作やWebデザインなどクリエイターの仕事も、やりがい搾取を生みがちな職業です。人気があり憧れの対象になりやすく、希望者も多いため、従事できること自体に喜びを感じることが多いでしょう。スケジュールがタイトで納期がある仕事のため長時間労働になりやすく、低賃金でも納得して仕事をする傾向があります。

クリエイターの中でもアニメ制作は賃金が安く、仕事は長時間に及ぶのが実情とされています。一般的に賃金が低い仕事は人材が集まらないため、雇用主は賃上げを検討します。しかし、アニメ業界は強い憧れにより働きたい人が多数います。薄給でも働きたいという人が絶えず、意図せずやりがい搾取になっているということもあるようです。

やりがい搾取の事例

やりがい搾取の具体的事例では、以下のようなものがあげられます。

  • 残業代や休日出勤などの割増賃金が支払われない
  • 有給休暇を取得できない

どちらも雇用主の法的義務ですが、やりがい搾取のもとでは実施されず、不当な状況で働かされています。やりがい搾取としてどのようなことが行われているのか、詳しい内容をみてみましょう。

残業代など割増賃金が支払われない

労働基準法では1日に8時間以内、1週間に40時間以内の法定労働時間を定めています。法定労働時間を超えた時間外労働や深夜労働、休日労働には割増賃金の支払いが必要です。しかし、やりがい搾取により割増賃金が支払われていない事例もあります。割増料金を支払わない理由として、「固定残業代として基本給に残業代が組み込まれている」「変形労働時間制をとっている」といったこともあるでしょう。しかし、それが適正かどうかを検証する作業は必要です。

賃金が、最低賃金法に規定される最低賃金を下回るケースもあります。具体的な最低賃金額は都道府県ごとに定められており、最低賃金を下回る場合は、やりがい搾取以前に違法です。やりがい搾取が行われている職場では、本来なら最低賃金の算定に加えない手当・残業代を含めて最低賃金を設定しているケースもあります。最低賃金額を下回るかどうかの判断は手当や残業代等を除外して計算しなければならないため、最低賃金を下回る賃金で働かせていることは明らかです。

有給休暇を取得できない

有給休暇の取得は、労働者の正当な権利です。6ヵ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には必ず10日以上の有給を付与しなければなりません。しかし、やりがい搾取をしている会社では、有給休暇を申請しても何らかの理由をつけて認めてもらえない、あるいは申請がしづらい雰囲気になっているといった状況があります。仕事が忙しいため、有給休暇を取ることができない状態におかれている場合もあるでしょう。

また、労働基準法では、労働者が6時間以上の労働を行う場合は休憩を取得させなければならないとしています。しかし、実際には忙しいことを理由に、休憩なしで働かされているケースも見受けられます。

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やりがい搾取を防ぐ対策

やりがい搾取が起こるのは、雇用主が意図的に行っているケースばかりではありません。むしろ、知らずにやりがい搾取という結果になってしまうケースの方が多いかもしれません。やりがい搾取に陥らないためには、労務管理を適切に行う・法令を遵守するなど、当たり前のことを適切にすることに尽きます。ここでは、企業が最低限やるべき対策をご紹介します。

労務管理を適切に行い法令を遵守

割増賃金の未払いや長時間労働などは、適切な労務管理によって防げます。労務管理は労働基準法をはじめさまざまな法律によってルールが定められており、法を遵守した適切な労務管理を行うことは、やりがい搾取の防止に向けて企業が最低限行うべきことです。

従業員の勤怠管理や有給休暇の管理、離職が多い部署の特定などを通して、労働環境の改善に努めましょう。

定期的な人事面談も行い、従業員の状況を把握してやりがい搾取が起こっていないかを常にチェックしていくことも必要です。

ジョブクラフティングを実施

労務管理の適切な実施で労働環境が整えば、やりがい搾取防止の基盤は整います。さらに、ジョブクラフティング(Job Crafting)に取り組むことで、従業員は主体的なやりがいを獲得することができます。

ジョブクラフティングとは、自ら仕事に対する行動を変えることで、仕事をやりがいのあるものへと変えることです。従業員は命じられるのではなく自分の意思で担当する仕事について再定義し、新しい視点を取り入れます。仕事への向き合い方を変えることでモチベーションは高まり、パフォーマンスや生産性の向上が期待できるでしょう。

ジョブクラフティングにより従業員は会社の仕事に意義を見いだすため、離職率の低下も図れます。ジョブクラフティングは従業員が自主的に意識改革を行う方法ですが、その環境は企業、人事が提示すべきです。まずは計画を立て、研修やワークショップを企画・開催していきましょう。

なお、導入の手順は、以下の記事でも詳しく解説しています。

参考記事:ジョブクラフティングのやり方・具体例を解説。企業が注意すべき3つのこととは

管理者の意識改革とコミュニケーションの推進

やりがい搾取を防ぐには、管理者の意識改革や部下とのコミュニケーションが欠かせません。やりがい搾取は管理者が部下のやりがいや主体性に期待して放置したり、管理者が考えるやりがいを従業員に押しつけたりすることですすんでいきます。

気づいたらとつぜん「やりがい搾取を理由に離職した」といったことにならないように、定期的な面談を行い、部下の状況を確認するようにしましょう。また、ジョブクラフティングを推進する場合、面談によるコミュニケーションは必要不可欠です。

経営層の意識改革と人事部門の支援

これまで説明してきた適切な労務管理の推進やジョブクラフティングの実施、管理者の意思改革は、経営トップをはじめとする経営層の意識改革なしでは実現できません。「若いうちは苦労を買ってでもせよ」といった価値観、「やればできる」といった根性論・精神論を押しつけている状態ではいけません。人事としても経営層に助言、諫言することも必要でしょう。また、実際に自ら声を上げられない従業員の受け皿として、人事が対応する相談窓口を設置することもよいでしょう。

やりがい搾取していない?チェックポイント

自社がやりがい搾取をいていないか、チェックしてみましょう。以下の内容にあてはまるものを確認してください。

  • 残業を少なくする取り組みを行っている
  • 残業代など割増賃金はしっかり計算して支給している
  • 同業他社と比較すると給与水準は高い/著しく劣ってはいない
  • 有給申請があった場合、快く許可する社風がある
  • 超勤時間は適切に確認している
  • 超勤時間が長い社員については、面談をしている
  • 労働時間の規制がない管理職の勤務時間や仕事内容も把握している
  • サービス出勤、サービス残業は行われていない
  • 定期的に昇給を行っている
  • 給料面や労働環境への不満について、職場の声に耳をかたむている
  • 社会保険に加入している
  • 管理職は部下のメンタル状態を把握できている
  • 経営層と従業員、管理職と部下は率直な意見を話し合える環境にある
  • 管理職は叱咤激励するだけの役回りになっていない
  • ボトムアップ型の意思決定の余地が十分にある
  • 経営層は職場環境の改善に対して常に前向きである

あてはまるものが多いほど、適切な労働環境を築けているといえます。あてはまるのが半分以下の場合、やりがい搾取に陥りかねませんので参考にししてください。とくに法令に関わる部分は早急に改善してください。

やりがい搾取は、企業にさまざまなデメリットをもたらします。離職率が高くなり採用コストが上がるだけでなく、やりがい搾取をしている企業だということが世間に広まることで企業イメージも損なわれるでしょう。

まとめ:やりがい搾取される企業といわれないように

やりがい搾取は労働者の「やりがい」を利用して長時間労働・低賃金で働かせ、本来支払うべき賃金の支払いを免れる行為です。やりがいを持つこと自体は有意義なことですが、それを利用して不当な労働行為を行うのは雇用側として避けなければなりません。

意図せずやりがい搾取に陥ってしまうケースもあるため、自社がやりがい搾取を行っていないか注意が必要です。従業員の勤務状況を把握し、やりがい搾取の防止に努めましょう。

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