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ISO30414・人的資本情報開示のガイドラインとは?~認証取得のメリットや手順も解説

2023年5月26日更新

ISO30414・人的資本情報開示のガイドラインとは?~認証取得のメリットや手順も解説

ISO30414とは、人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインです。ESG投資への関心の高まり、ステークホルダーからの信頼確保などの理由から、ISO30414に準拠した人的資本の情報開示や、第3者認証取得に対する関心が高まっています。本記事ではISO30414の概要や注目される理由、開示事例などを解説します。

INDEX

ISO30414とは?

ISO30414とは、ISOが発効した人的資本に関する情報開示のガイドラインです。自社の人的資本情報について開示するための規格であり、企業の透明性を高めることを目的として発効されました。

ISOとは「International Organization for Standardization」の略で、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関 ・国際標準化機構です。国際的に通用する規格の制定が主な活動で、ISOが制定した規格をISO規格といいます。ISO規格は、国際的な取引を円滑に行うため、製品・サービスに関して、世界中で同じ品質、同じレベルのものを提供できるようにするための国際的な基準です。

すでに品質マネジメントシステムのISO9000sや、環境マネジメントシステムのISO14001を導入し、第3者機関からその適合性の認証を取得する企業・組織も多く、おなじみの方もいるかもしれません。人的資本の情報開示に関するISO30414についても、すでに第3者機関の適合性評価、認証取得の制度もはじまっています。

ISO30414で開示が求められている人的資本とは、人材や人材が持つスキルなど、非財務的な要素です。そこには人材を企業の資本と捉え、その価値を最大限引き出すことが中長期的な企業価値向上へとつながるという「人的資本経営」の考え方が存在します。

企業がどのような人的資本を持っているかは外部からは不明です。そこで、人的資本の情報開示が求められているのです。

なお、人的資本の情報開示については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

参考:人的資本の情報開示~義務化の内容と19項目をわかりやすく解説

ISO30414が注目されている理由・背景

2020年8月、アメリカで証券取引を監督・監視する連邦政府機関・米国証券取引委員会(SEC)は、上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化しました。これを受けて、日本でも、2023年3月期決算以降、人的資源の情報を有価証券報告書に記載し、ステークホルダーに開示することが求められています。そうした中で、欧米企業がスタンダードとする国際規格ISO30414に注目が集まっているというわけです。

ISO30414に関心が高まる背景には、ESG投資に対する注目もあげられます。ESG投資とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字をとった言葉で、これら3つに対する企業の取り組みを評価基準とする投資方法です。

ESG投資において投資家は、企業が環境・社会・企業統治に配慮しているかどうかを判断基準に投資を行います。売上高などのデータが良くても、3つの要素が低ければ評価されず、投資対象から外される場合があります。

一例として、「環境」は二酸化炭素の排出量の削減など環境汚染対策、「社会」は労働環境の改善、「ガバナンス」は積極的な情報開示があげられます。これらの活動は企業の「持続的な成長」を裏付けるもので、企業が成長し続けるために欠かせません。目先の利益だけを追求するのではなく、環境や社会と向き合い、公平かつ公正な企業活動をしていることが評価されるのです。

投資家は企業が従業員の育成や労働環境の改善に力を入れているかにも注目しています。ISO30414に基づく情報開示もEMG投資の判断において重要な指標となってきているのです。

ISO30414に基づく情報開示の3つのメリット

ISO30414に準拠した情報開示には、多くのメリットがあります。その中でも、特に大きなメリットについて3つ紹介します。

優秀な人材の採用・確保

ISO30414に基づいた人的資本情報の開示は、優秀な人材の採用・確保につながるのがメリットです。開示された情報を見た求職者は組織内の人材の能力やスキル、成長機会について確認でき、「人材育成に投資している企業は自分も成長できる」と考え、応募を決める判断基準となります。

求職者にとって自分が成長できる企業であるかどうかは重要なポイントです。単に「わが社は人を大切にする企業です」と宣言するだけでなく、国際規格との適合性を評価されている企業の方が信頼性があることは間違いありません。求職者がISO30414に準拠して人的資本情報を開示している企業を優先的に選ぶ時代がすぐそこまできているのかもしれません。

人的資本情報の開示を判断材料とする求職者は成長意欲が高い傾向にあり、入社後の活躍も期待できるでしょう。ISO30414に基づく情報開示によって、そのような人材が集まるのは大きなメリットといえます。

外部からの評価基準として活用

ISO30414は、顧客や取引先、投資家などステークホルダーへの効果的な情報開示ができるのもメリットです。

ISO30414は国際的なガイドラインとして高く認知されており、ISO30414に基づく人的資本の報告は企業の透明性や信頼性を高める効果があります。外部からの評価基準として活用できるでしょう。

社会的責任を果たす企業として評価を高め、投資家や顧客からの信頼獲得につながることが期待できます。

また、ISO30414は企業の人的資本の状況を質的・量的な両方の側面から把握するためのガイドラインとなっているため、人的資本経営推進の羅針盤になるということも大きな利点といえるでしょう。

人的資本価値の明確化

ISO30414では人的資本の状況を数値化できるため、それを分析することで課題も見えてきます。課題解決への改善策も講じやすいでしょう。ISO30414を基準にして課題の改善を繰り返すことで、人的資本の価値を高めていくこともできます。

人的資本の価値が高まれば、戦略人事を推進していくことができます。

ISO30414に準拠して人的資本経営の施策を検討・整理していくことで、会社の成長に貢献している人材や、自社に足りない人材も見えてきます。企業に必要な人的資本が明らかとなることで、安定的な経営につなげることもできるでしょう。

ISO30414 人的資本開示・認証取得の事例

実際にISO30414に基づく情報開示をしている企業の事例について、詳しくみていきましょう。ここでは、日本と海外における開示事例を紹介します。

リンクアンドモチベーション

株式会社リンクアンドモチベーションは「モチベーション」にフォーカスした経営コンサルティングの会社です。同社は2022年3月、日本で初めてISO30414を取得しました。組織人事コンサルティングのパイオニアであり、基幹技術「モチベーションエンジニアリング」を基盤に多くの企業変革を実現してきた会社です。顧客に提供するサービスは自社でも活用し、従業員エンゲージメントの向上を図ってきました。

同社ではISO30414取得と同時に、自社の組織戦略や経営の考え方をわかりやすくまとめた「Human Capital Report 2021」を発行しています。事業戦略と組織戦略をリンクする自社の経営モデルや、組織戦略の重点領域である「採用」「育成」「制度」「風土」の4領域についてのマネジメントを詳細に紹介しているレポートです。

参考:株式会社リンクアンドモチベーション「Human Capital Report 」

豊田通商

トヨタグループの総合商社である豊田通商株式会社は、2022年10月にISO30414を取得しました。卸売業では初めての認証取得です。

ISO30414と合わせ、人的資本に関する定量情報を織り込んだ「Human Capital Report 2022」を発行しました。同レポートでは、経営からのメッセージとして「強い個」「強い組織」に基づく人事施策や取り組みを紹介しています。

同社はこれまでも企業価値向上のため、人材の価値を高める取り組みを行っています。今後はISO30414に準じた客観的な比較やPDCAサイクルを実践しながら、人的資本経営への取り組みをさらに加速させていくとしています。

参考:豊田通商株式会社「人的資本に関する情報開示のガイドライン「ISO 30414」の認証を取得」

ソニーグループ

エレクトロニクスをはじめ幅広い事業を展開するソニーグループ株式会社は、「サステナビリティレポート」において人的資本を開示しています。同社はステークホルダーへの適切な情報開示とコミュニケーションを大切にしており、2019年から毎年レポートを発行しています。

2022年のサステナビリティレポートでは、20ページにわたり人材について詳細なレポートを開示しているのが特徴です。世の中に新しい価値を提供し続けてきたソニーにとって「人」は最も重要な経営資源であり、社員一人ひとりの挑戦心と成長意欲の支援に尽力することを表明しています。

今後に向けては、ダイバーシティやエクイティ&インクルージョン、社員の成長と活躍、「社員エンゲージメント」に注力することを示しました。

同社は米国株式市場で上場しており、人的資本開示を含むレポートはSECに提出されています。

参考:ソニーグループ「サステナビリティレポート2022」

アリアンツ

アメリカでのSECによる人的資本の情報開示義務化に見られるように、欧米諸国ではISO30414の取り組みが進んでいます。

アリアンツは、ドイツの大手保険会社です。毎年「People Fact Book」を発行して人的資本を開示しており、「People Fact Book 2021」ではISO30414を取得したことを報告しています。

また、レポートの冒頭では、最先端のテクノロジーを駆使した人事改革プロジェクト・HRT(Human Resources Transformation)を成功させたことを紹介しています。

同社では、すべての従業員に公平で公正な機会を提供する職場を構築しているのが特徴です。多様性を尊重する施策は、外部からも高い評価を受けています。

参考:アリアンツ「People Fact Book 2021」

ドイツ銀行(DWS)

ドイツ銀行グループのアセットマネジメント会社であるDWSは、世界で初めてISO30414の認証を取得した会社です。これを受け、ドイツ銀行も人的資本に関する情報開示のレポート「Human Capital Report 2020」の評価により2021年3月にISO30414の認証を取得しました。銀行としては世界初の取得です。

ドイツ銀行では企業の市場価値や信用格付けにおいて無形資産の価値が重要であると認識し、人的資本のレポーティングに取り組んできました。

参考:ドイツ銀行「Human Capital Report 2020」

ISO30414 認証取得の手順(3ステップ)

ISO30414の認証を取得して人材資本の情報を開示するには、手順を踏む必要があります。ここでは、大きく3つの段階に分けて、かんたんに解説します。

認証先や期間を確認する

ISO30414の認証取得には、日本国内の認証機関による審査を受ける必要があります。2023年5月現在、日本のISO30414認証機関は、ISO30414に準拠した人的資本コンサルティングを展開するHCプロデュース株式会社のみです。

一般的なISOは、認証取得までの期間に6〜12ヶ月程度を要します。ISO30414は認証取得後も1年ごとに簡易的な監査を行い、3年ごとに再審査が行われる仕組みです。

社内データを集める

認証取得に向けた準備は、ISO30414の58項目の指標に従って必要な内部データを揃えることから始めます。データの準備がある程度整い、仕組みが整備できた頃に、審査を申し込むという流れです。審査内容は、主に「データの確認」「インタビュー」「実査」の3種類あります。

「データの確認」では、データを取得する仕組みが正しく機能しているか、そのような仕組みに基づいてデータが正しく収集されているかがチェックされます。

「インタビュー」とは、経営者や人事責任者などへのヒアリングです。認証取得の目的や人的資本に関する考え方、事業戦略との関連性などを詳しく聞き取ります。

「実査」は実際に職場へ出向いて行われます。インタビューの内容が実態を伴って機能しているかのチェックです。従業員に話を聞くなどして、エンゲージメントや組織文化、人事施策などが浸透しているかを確認します。

KPIを明確にする

ISO30414認証に向けて集めた社内データは、ISO30414のどの項目・指標に該当するかの確認が必要です。それらが自社のKPI(重要業績評価指標)となっているかをチェックしましょう。

その際は、原因となる指標と結果となる指標の関係性にも着目します。

例えば、原因指標として人材育成の投資が増えた場合、結果指標として従業員エンゲージメントが上がるといった関係性です。

まとめ:ISO30414を人的資本経営のガイドラインに

人的資本経営の取り組みを進めるうえで、ISO30414はとても有益なガイドラインと言えます。人的資本の情報開示は、顧客や取引先、投資家などのステークホルダーや求職者からの信頼を得るうえで有益といえます。

今後、日本でも人的資本の情報開示に向けた動きはますます加速することが予想されます。認証取得に今すぐ動き出すかどうかはともかく、まずはISO30414の内容を理解し、人的資本経営を推進していくことからはじめていりましょう。

そのとき、ISO30414は、その施策立案のための羅針盤として大いに役立つといえるでしょう。

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