LMX理論とは? 「リーダー・メンバー交換理論」を基礎から解説
2024年4月 2日更新
リーダーシップ開発で「LMX理論」が注目されています。ただ、その特徴やほかのリーダーシップ理論との関係性がわからず、どう自社のHR施策に応用するかがわからないという人事部門の方もいるのではないでしょうか。 本記事では、LMX理論の概要と、さまざまなリーダーシップ理論について解説します。
LMX理論とは
LMX(Leader-Member Exchange)理論とは、リーダーが一人ひとりの部下との関係性を重視してマネジメントを行うためのリーダーシップ理論です。従来のような1人のリーダーに対してメンバーが一方的に影響を受けるというあり方ではなく、一人ひとりの部下との信頼関係や協調関係を構築することに重きを置かれています。 以下では、LMX理論の具体的な内容を解説していきます。
1970年代にグラーエンが提唱
LMX理論は、1970年代にグラーエン氏とウルビエン氏により提唱されました。リーダーシップの本質を「人間関係は報酬の交換で成立する」という交換理論としたものです。従来のリーダーシップ理論として扱われることの多かった「一人のリーダーに対して複数のメンバー」という関係性ではなく、「一人のリーダーに対して一人のメンバー」という個人間の関係性が重視されています。
リーダーとメンバー間の「報酬」
リーダーとメンバーの間で交換される報酬には、目に見える外的報酬と目に見えない内的報酬があります。
リーダーがメンバーに対して提供する報酬とは、以下のようなものです。
- 外的報酬:給料、昇進、業務の割り当てなど
- 内的報酬:評価、信頼、尊敬、注目など
一方、メンバーがリーダーに提供する報酬には、以下が挙げられます。
- 外的報酬:業務の遂行
- 内的報酬:信頼、忠誠心
この交換関係をLMXといい、リーダーシップはLMXが高い(お互いに信頼し合う好意的な関係である)ときに発揮されるとされ、高いリーダーシップが発揮されたときにメンバーのエンゲージメントやパフォーマンスが向上するのです。
同じ行動でも、LMXの高さによってリーダーがメンバーに与える評価や、メンバーがリーダーに抱く感情が変化します。たとえば、部下がミスを起こした際にLMXが高い部下には「仕事していればこんなこともあるよね」というのに対し、LMXの低い部下には「詰めが甘いよ」と苦言を呈すなどが挙げられるでしょう。
LMX理論における「イングループ」と「アウトグループ」
LMX理論には、LMXの高い集団「イングループ」と、LMXの低い集団「アウトグループ」が存在します。イングループのメンバーは報酬としてリーダーの期待や信頼を受け取るため、メンバー自身も報酬以上の働きをしようと努める交換関係が構築されますが、アウトグループの場合にはリーダーと契約上の報酬を交換するだけの関係になるのです。
2つのグループ間でメンバーが移動することは生じにくく、一度イングループとして認識されたメンバーほど時間の経過とともに信頼関係が構築されていきます。反対にアウトグループに分類されたメンバーは、イングループへ移動することは困難です。
これらのグループ分けは、短期間の中でリーダーがほとんど無意識下で行うもので、コントロールが難しいものといえるでしょう。
従来型リーダーシップ理論
リーダーシップ論には「PM理論」や「SL理論」、ダニエル・ゴールマン提唱の「6種のリーダーシップ」など、さまざまな種類のものがあります。リーダーシップ理論の多さからも、ビジネスにおいてリーダーシップがいかに注目されているかがわかるでしょう。ここでは、従来用いられてきた代表的なリーダーシップ理論を紹介します。
「PM理論」「SL理論」
リーダーシップを発揮する上で大切な理論として、三隅二不二氏により提唱された「PM理論」と、PM理論に紐づくものとしてポール・ハーシー氏とケネス・ブランチャード氏により提唱された「SL理論」があります。両方の理論を使って分析や軌道修正を行うことで、リーダーシップの成長につながるのです。人事部門であればおなじみかもしれませんが、あらためて確認していきましょう。
PM理論
PM理論は、リーダーに必要な要素を明確に示し、リーダーシップ機能を類似化するための理論です。目標を達成するために発揮される「P機能」、企業や組織などの集団をまとめるために発揮される「M機能」で構成され、それぞれを強弱に分類した以下の4つのパターンに分類されます。
- PM型(理想的なリーダー)
- Pm型(Mが弱い=集団維持に弱い)
- pM型(Pが弱い=目標達成行動が弱い)
- pm型(PもMも弱くリーダーに向かない状態)
Pは「目標達成機能(Performance)」、Mは「集団維持機能(Maintenance)」を意味し、4つのパターンの分類において自分がどのタイプかを知ることで、リーダーとしての強みや不足する部分を可視化できるのです。理想的なリーダーを育成するために有効な理論といえるでしょう。
SL理論
SL理論とは相手の状態に応じて、リーダーの行動やマネジメント方法を変える理論のことです。メンバーの育成状況やスキルの習熟度などに合わせて適切なコミュニケーション方法をとることで、リーダーシップの発揮につながります。リーダーシップの発揮方法は、以下の4つです。
- S1(指示型)
- S2(説得型)
- S3(参加型)
- S4(委任型)
メンバーの状況に応じた無理のない業務配分ができるため、成長の促進やエンゲージメントの強化につながります。結果、組織のパフォーマンスも上がるでしょう。管理職がリーダーシップを発揮する際にも役立つ理論です。
ダニエル・ゴールマン提唱「6種のリーダーシップ」
リーダーシップ理論として、ダニエル・ゴールマン提唱の「6種のリーダーシップ」も幅広く知られており、ビジネスに用いられています。6種のリーダーシップとは、以下のとおりです。
- ビジョン型
- コーチ型
- 関係重視型
- 民主型
- ペースセッター型
- 強制型
それぞれのリーダーシップについて解説します。
ビジョン型
ビジョン型は、組織が掲げるビジョンや進むべき方向性を明確に示し、メンバーを導いていくタイプです。目標やビジョンに共感して賛同したメンバーが一体となって集まるため、目標の達成に向けてチームワークで取り組みやすくなる、前向きなリーダーシップといえるでしょう。組織として達成すべき大きな目標がある場合に有効といえます。
メンバーの自主性が求められるため、リーダーや組織に対して不信感を抱かれた場合や意欲のない社員に対しては、機能しなくなるリーダーシップタイプです。
コーチ型
コーチ型は、リーダーとメンバーという1対1の関係を重視し、メンバーそれぞれの目標をサポートしていくタイプです。リーダーがメンバーに対してコーチングを行うため、一人ひとりの性格や強み、弱みなどを把握した上で目標達成まで導いていきます。コミュニケーションが活性化してメンバーのモチベーションやエンゲージメントの向上につながるでしょう。主体性のある組織文化の企業に有効なリーダーシップタイプです。
しかし、組織が大きいとすべてのメンバーに目が行き届きにくくなる点や、リーダーの負担が大きくなりがちというデメリットがあります。
関係重視型
関係重視型は、リーダーがメンバーと同じ目線に立ち、人間関係や感情に配慮した環境で信頼関係を築くタイプです。組織の人間関係を良好に保ちやすいため、メンバーの居心地が良い環境を構築できるでしょう。それぞれの事情でメンバー間での調整が必要な場合に、スムーズに話を進めやすいという特徴があります。
一方、メンバー間の関係への配慮を優先することで、組織の目標が後回しになったり、責任の所在が不明になったりする可能性がある点に注意しなければいけません。
民主型
民主型は、各メンバーの意見や提案を広く受け入れ、目標の達成に向けて組織内の活動に採り入れていくタイプです。メンバーが自身の意見を受け入れたり共有されたりすることで、モチベーションを高めやすくなります。当事者意識を醸成し、組織内で良好な関係性を維持することにもつながるでしょう。
多数の幅広い意見を集められるため、ユニークな解決方法や革新的なアイデアを導きやすくなります。複雑な業務プロセスなどで、リーダーのみでは判断が困難な現場に適したリーダーシップタイプです。しかし、意見にばらつきが出ると結論が出にくく、意思決定が遅くなるのが懸念点といえるでしょう。
ペースセッター型
ペースセッター型は、高い実力を持つリーダーが具体的な手本を示し、成功イメージを与えてメンバーを牽引するリーダーシップタイプです。リーダーの能力の高さを見せることでメンバーから信頼されやすく、チームのパフォーマンス向上につながります。個人の能力が成果に反映されやすい営業や、販売員などの職種に適したリーダーシップタイプです。
ペースセッター型はメンバーもスキルを持っていることが前提となるため、人材育成が難しく、追いつけないメンバーがいる場合はリーダーのフォローが必要になるといったデメリットがあります。
強制型
強制型は権力や圧力を使い、強い指示や命令を下して従わせることで目標達成を目指すタイプです。リーダーのみが決定権を持っているという特徴があります。ほかのリーダーシップタイプでは効果を得られないときや、災害時のように緊急性が高く、迅速な意思決定が必要な場合に有効です。
メンバーを強制的に従わせることになるため、納得できないことがあると不満につながる懸念があります。組織力の低下を招く恐れがあるため長期的には発揮せず、状況に応じて使い分けることが効果的です。
※参考:リーダーシップの6類型
近年注目のリーダーシップの種類
リーダーシップ理論は、時代の特性に合わせてさまざまな変遷を辿っています。近年注目を集めているリーダーシップとして挙げられるのは、以下の5つです。
- トランスフォーメーショナル・リーダーシップ
- トランザクショナル・リーダーシップ
- シェアード・リーダーシップ
- サーヴァント・リーダーシップ
- オーセンティック・リーダーシップ
ここからは、それぞれのリーダーシップについて解説します。
トランスフォーメーショナル・リーダーシップ
トランスフォーメーショナル・リーダーシップは、部下とビジョンを共有し、組織や仕事の魅力を伝えることで、組織を高いレベルに引き上げることを目的とするタイプです。入山章栄氏の著書「世界標準の経営理論」にて提唱されました。
メンバーの自己成長を促し、チームが一体となって組織のビジョンに向けて取り組める環境を構築します。
カリスマ・知的刺激・個人重視の3つの資質から構成され、メンバーのスキルアップやモチベーション向上に有効です。
トランザクショナル・リーダーシップ
トランザクショナル・リーダーシップは、部下との関係性を重視し、心理的な取引や交換(トランザクション)を用いてパフォーマンスを発揮できるよう促すリーダーシップです。トランスフォーメーショナル・リーダーシップと同じく入山章栄氏に提唱されたもので、部下が成果を挙げていれば指示を控えるため、部下の主体性を醸成したい場合に有効でしょう。部下のモチベーションを高めるトランスフォーメーショナル・リーダーシップとは、補完関係にあるタイプです。
シェアード・リーダーシップ
シェアード・リーダーシップとは、組織内の特定の一人がリーダーシップを発揮するのではなく、組織の複数または全員のメンバーがリーダーシップをとるという理論のことです。立教大学の教授・石川淳氏の著書「シェアド・リーダーシップ」で紹介されている理論で、組織で共通した目標や責任のもと、メンバーの個々の強みを活かしながらチーム全体のパフォーマンスを向上させることが目的とされています。メンバーそれぞれが組織運営への当事者意識を持つことにもつながるでしょう。
しかし、組織のビジョンを明確にしたり最終的な意思決定を下したりするためには、正式なリーダが必要です。
サーバントリーダーシップ
サーバントリーダーシップは、ロバート・K・グリーンリーフ氏に提唱されたもので、メンバーを奉仕かつ支援しながら目標の達成にまで導いていくタイプです。部下をサポートしながら個々の可能性を引き出し、信頼関係を構築することが重視されます。とはいえ一方的に奉仕してメンバーを甘やかすのではなく、誤っていることは愛情を持って指摘し、軌道修正することが必要です。サーバントリーダーシップがうまく機能すれば、メンバーの主体性が醸成されて自ら目標達成に向けて行動することが期待できます。
オーセンティックリーダーシップ
オーセンティックリーダーシップはウィリアム・W・ジョージ氏により提唱されたリーダーシップで、倫理観を持ちつつ、自分自身の考えや価値観をベースとしてリーダーシップを発揮するスタイルです。従来の理論で重視されてきたリーダーとしての模範行動や資質に迎合するのではなく、自身の価値観や根底にある考えを大切にします。組織のビジョンや目標を正しく理解した上で、個々が強みを活かせる環境を構築すると、メンバー同士でフォローし合える強い組織になることが期待できるでしょう。
まとめ:LXM理論を参考にリーダーとメンバーの関係の質の向上を図る
さまざまなリーダーシップ理論を整理してみましたが、いかがでしたでしょうか。従来のリーダーシップ理論では、主にリーダーが部下に与える影響に焦点を当ててきました。しかし、LMX理論はリーダーとフォロワーの相互作用に焦点を当てている点が注目です。ただ、リーダーシップ理論についてはどれが「正解」ということを議論するのは意味がなく、自社の人材開発、管理職育成にどう役立てるかという視点でみることが大切といえるでしょう。
いずれにせよ現代の企業組織では、リーダーと部下、メンバー同士の「関係の質の向上」によって、業績の向上とイノベーションをもたらすことが期待されています。そのためには組織における「使命感」の共有が不可欠です。それによりはじめて、メンバー全員がやる気と主体性をもって行動し、各自の個性と能力が存分に発揮する「強い現場」が生まれていくのです。
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