「弱いリーダーが、強い組織をつくる」は本当か?
2017年10月11日更新
最近、「リーダーは必ずしも強くなくてもいい」というリーダー論が唱えられています。「弱いリーダーが強い組織をつくる」というのですが、これを聞いて「えっ? そんなはずは......」と驚かれたかもしれません。
これまでは一般的に「リーダーは強くなければならない」ということに異論を唱える人はいませんでした。では、なぜ今「リーダーは強くなくてもいい」というのでしょうか? 今回は組織開発の視点から、これからのリーダーのあり方をお話しします。
「組織はそのリーダーで決まる」と言われるように......
昔読んだ本にこんなことが書いていました。「一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れは、一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れに勝る」と。これはナポレオンの名言です。つまり、リーダーでチームの優劣が決まるということです。
これまでのリーダー教育というと、もっぱら強いリーダーを育成するプログラムが一般的でした。理想のリーダー像として、ソフトバンクの孫社長やファーストリテイリングの柳井社長のように、決断力や洞察力、行動力があり、ビジョンやミッションを明確にもって組織をグイグイ引っ張っていくイメージです。
しかし、最近、全く逆のリーダーシップ論が唱えられています。今や「カリスマはいらない」「権力や地位で動かす時代ではない」と言われています。ハーバードの発達心理学と教育学の権威であるロバート・キーガン博士の著書『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』(2017年8月・英治出版刊)にも、強いリーダーとは全く逆のことが書かれていたのですが、妙にしっくりきました。
早稲田大学ラグビー部 元監督・中竹竜二氏の事例
先日、(公財)日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター・中竹竜二氏の講演を聞く機会がありました。私はラグビーに詳しくないのですが、彼のリーダーシップ論にとても共感しました。
中竹氏は2006年、輝かしい実績を持ったカリスマ・清宮克幸氏の後任として、早稲田大学ラグビー部監督に就任しました。清宮氏が強烈なリーダーシップを発揮し選手を叱咤激励していたのに対して、輝かしい実績がない中竹氏は「フォロワーシップ」でチーム運営を行い、全国大学選手権で2年連続優勝に導きました。
その実績を買われて、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターやラグビーU20日本代表監督に就任しました。今では「フォロワーシップ論」を企業経営に指導し、リーダーの教育や組織変革のコンサルティングにも携わっています。
一般的に、リーダーは自分を強く見せようとしますが、中竹氏はリーダーといえども不完全であることや、弱みを見せることの重要性を説いています。リーダーが正直に自分の欠点を話すことによって、逆にチームワークが高まります。
リーダーが弱みを見せることによって、リーダーをサポートしてあげようと、メンバーが主体的に動いてくれるようです。つまり、弱みを正直にさらけ出すことができれば、弱くても誰でもリーダーになることができるということです。
強いリーダーから弱いリーダーの時代へ
今まではカリスマと呼ばれるような強いリーダーが活躍していました。カリスマ型リーダーは、的確な指示・命令を部下に実行させてチェックする支配型リーダーシップを発揮します。
しかし、昨今のスピードが求められる時代において、リーダーがすべての情報を把握することが難しくなっています。さらに、今までの成功体験が、変化対応や成長を邪魔することにもなりかねません。
今求められるリーダーは、支援型のリーダーです。リーダーの仕事はミッション・ビジョンを明確に掲げ、実務は部下に任せるスタイルです。これにより自律的に行動する組織ができあがり、スピーディに変化に対応できる組織をつくることができます。
その中で必要とされるのが、「任せるスキル」「チームを巻き込むスキル」「教えてもらうスキル」です。そのため、リーダーは強くなくてもいいですし、むしろ弱い方がいいのかもしれません。強いチームには強いフォロワーがいることが重要なのです。これからの時代は、弱いリーダーでも強いチームをつくれるということです。
あなたの会社のリーダーは「足りないものはない?」「あなたはどう思う?」と部下に問いかけていますか?
「弱いリーダー」というのは少し語弊があるかもしれませんが、能力がないということでなく、ミッション・ビジョンを示し、部下の実行を支援するということです。周りのことをうまく把握し、尊重し、チームで仕事を進めることができることが重要です。
つまり、部下の思考や行動を促進する支援型リーダーの時代といえ、支援型リーダーシップが求められています。リーダーとしてまず部下に奉仕し、その後、部下を導くという哲学に切り替えないと組織を動かすことができません。
「支援型リーダーシップ」から始まる組織開発
「働き方改革」というと、リーダーがリーダーシップを発揮する経営改革とイメージする人が多いのですが、実は、リーダーがビジョンを示して、部下一人ひとりがリーダーシップを発揮して業務改善と生産性向上を推進する活動です。リーダーは、部下が働きやすい職場をつくることに徹してほしいのです。
そのためには、リーダーは日頃からミッション・ビジョンをしっかり部下に語って、彼らの悩みや課題、現場の問題を把握していなければなりません。何か問題が起きても、ミッション・ビジョンが共有されていると、不要な指示・命令、報連相がなくなり、リーダーの負担が一気に軽減されます。さらに、業務のスピードも速くなり、生産性が向上し、組織開発が推進されます。その結果、部下のモチベーションも上がり、さらに職場が活性化し、働きやすい職場が実現できるのです。
これからの時代の人事は、働き方改革を推進するために、リーダーがミッションやビジョンを語り、部下が仕事や人生を語るなど、本音で個人と会社のことを話し合える機会をつくる、その仕掛けづくりが重要になってくるのではないでしょうか
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。
慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。 著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)