社員が幸せな会社づくりは「人間的な温かさ」を基準に
2019年9月30日更新
社員が幸せな会社づくりには、どのようにして取り組んでいけばよいのでしょうか。
社員が幸せな会社づくりに万能な取り組みはない
働く人が幸せを感じイキイキと働ける会社をつくろうと考えたとき、実際の現場レベルでは、具体的に何に取り組んでいけばよいのでしょうか。
「現場で何を行えばよいか」という話になってくると、正直なところ「〇〇をしたらよい」という画一的な答えは見つかりにくいものです。なぜならば、実際の現場は、人や仕事内容など状況が千差万別ですので、「これをやれば正解」というような具体的な取り組みを提示しにくいのです。
たとえば、以前ある企業を訪問したとき、その会社では昼食は社員みんなで、大きな会議室でとるようにしていました。ランチ会議の大規模なカタチのものです。実際の風景を見せてもらうと、社員が業務内容やイベント企画などの会議を昼食の場で行っていました。
なぜ、このようなランチ会議の風土が生まれたのかを社員に質問したところ、次のような答えが返ってきました。
「ランチ会議はすっかり定着しています。ないと困ります。昼食を取りながら、全員が意見を出し合うと、とても活気のある会議になりますし、意見も出やすくなります。それに業務中は皆接客応対や手持ちの作業などで忙しく、まとまった時間を取って会議を行うことは難しいのです。そこで皆で相談したところ、『だったら、昼食の時に顔をそろえてランチ会議をしたらいいよね!』という流れになったのです。以前は職場の皆で顔を合わせて意見交換をする場がなかなか作れませんでしたが、このようにランチ会議が出来るようになってからは、皆の表情も見られるし声も聞けるし、単純な仕事の話云々というだけでなく、組織としての大切なコミュニケーションの場になっているのです。わが社にとってのランチ会議は、家族でいうところの『晩御飯は家族そろって食べる、団らんの場』みたいなものなのです」
「幸せな会社づくり」は何を基準にすればいいのか
上記のような取り組みは、その組織の風土の中で生まれて来たものであり、ではそのやり方(社員全員でのランチ会議)を導入すれば、どこの会社でも「幸せな会社づくり」に役立つかというと、正直なところ難しいのではないでしょうか。
ランチ会議に限らず、たとえ他社の成功事例であったとしても、それが自分の組織でうまく行くという保証はありません。重要なのは、取り組みそのものではないことに気がつくはずです。
では、「幸せな会社づくり」はどのようにして取り組んでいけばよいのでしょうか。筆者は、やり方そのものよりも、「人間的な温かさ」を基準に考えることが大切ではないかと思っています。これは会社レベルであっても、部や課やチームといった中小規模の組織であっても、同様です。
人が幸せを感じるときというのは様々ありますが、"仕事を通じて"ということで考えると「信頼できる仲間と共に働けていること」や「社会の役に立っていると実感できること」や「周囲の人々に必要とされていること」や「安心安全な環境で働けていること」などがあります。自分たちの働く組織をより良い組織、より幸せな組織にしていこうと考えたとき、たとえば職場の人間関係一つでも、他社の成功事例を単に導入するよりも、まずは主体性を発揮できる立場の人が周囲の人に対して「人間的な温かさを持って接していく」ことの方が大切ではないでしょうか。
部下育成を例にとってみますと、部下は人間的温かさのない上司、自分に関心を寄せてくれない上司との間に信頼関係を築こうとは思いません。世間では「ほめる」や「叱る」、「仏のマネジメント」や「鬼のマネジメント」といった事ばかりが先行して言われますが、部下にしてみると温かい関心を寄せてくれていない上司からほめられても叱られてもイヤなのです。
「今日、この遊園地に遊びに来てくれるご家族は......」
これは上司と部下の関係だけに当てはまることではありません。幸せな会社づくりを考える場合でも、全般に当てはめて考えることができるものです。
筆者がまだ会社勤めをしていた頃、老舗の遊園地の現場責任者をしていた時期がありました。レジャー施設は夏休みになると繁忙期を迎えますので、その時期は大学生のアルバイトもたくさん募集します。そうして集まったアルバイトの皆には、接客や安全運営の基礎基本を事前研修で伝えるのですが、それだけでプロのスタッフとして笑顔で接客や誘導が出来るようになるわけではありませんでした。
昨日までアルバイト経験がなかったスタッフが笑顔溢れる接客のプロになれるよう工夫していたことの一つに、毎朝の朝礼で繰り返し伝えていたことがありました。それは何かというと、人間的な温かさの話です。ただ、「人間的な温かさを持って接客をしてください」といっても伝わりませんので、そこは工夫をして、アルバイトスタッフの皆が実際に心が温かくなるような話をしていました。たとえば、
「皆は子どものころ、夏休みは好きだった? 夏休みにお父さんお母さんが遊園地とか水族館とか連れて行ってくれた時、どんな気持ちだった? 前日の晩からワクワクしたよね。ワクワクしてなかなか寝られなかったよね。朝になって、準備して玄関出るときから、もう待ちきれなかったよね。ちょっと目を閉じて、想像をしてほしい。今日来る子どもたちはね、あの頃の自分なのよ。小さかったころの、あの時の自分が今日来る。だからそんな自分を、『よく来たねっ!』、『楽しい思い出をいっぱい作って帰ってねっ!』て、抱きしめてあげるような気持で、今日出会う子どもたちに接してあげてください」
「今日、この遊園地に遊びに来てくれるご家族がいます。今日、同じ日に東京のディズニーランドに行く家族もいます。海外のディズニーランドに旅行に行く家族もいるかもしれません。東京のディズニーランドや海外のディズニーランドの方が、当然時間もお金もかかっています。でも僕らの遊園地にはミッキーのようなキャラクターもいない。だからって、今日ここに来てくれたご家族のお父さんお母さんの子どもに対する愛情がディズニーランドに行っているご家族のお父さんお母さんの愛情よりも少ないかっていうと、絶対にそうじゃないよね。子どもを笑顔にしたい、家族の幸せな思い出作りをしたいという思いに違いはないのが、皆にも分かると思う。もしかしたら、今日ここに来るご家族は、自営業で今日一日とか半日だけとかやっとの思いで休みが取れて、子どもを連れてきてあげたのかもしれない。この朝礼のあと現場に出ると、何百人何千人というお客様と接することになるけれど、忙しくても忘れないでほしい。お客様一人ひとりにとって、今日はそれぞれ特別な意味があるということを」
といった話をしていました。そうすると、アルバイトスタッフの皆の表情も変わってくるんですね。お金稼ぐための労働として考えていたものが、役割や責任のある仕事に変わっていくわけです。やんちゃそうなアルバイトスタッフが、遊園地に来てくれた子どもに対して膝をついて笑顔で寄り添いながら、遊園地のマップを一緒に見て、次に行く乗り物の相談にのってあげていたりするのです。
「人間的な温かさ」という基準をもって
これはアルバイトスタッフの育成という一例の話ですが、「人間的な温かさ」という基準をひとつ持って幸せな会社づくりを考えてみると、「働く人同士の信頼関係」であっても「仕事の役割」であっても「安心安全な職場環境づくり」であっても、今の自分たちの組織に合う取り組みが、今の自分たちに出来る範囲で、少しずつ見えてくると思います。
おそらくは、世間で成功事例として取り上げられている企業の取り組みも、はじめは小さな一歩だったのではないでしょうか。その一歩を継続した結果の成功です。人間的温かさという基準を持って、一歩ずつ進めることが大切です。
延堂溝壑(えんどう こうがく)
本名、延堂良実(えんどう りょうま)。溝壑は雅号・ペンネーム。一般社団法人日本報連相センター代表。ブライトフィート代表。成長哲学創唱者。主な著書に『成長哲学講話集(1~3巻)』『成長哲学随感録』『成長哲学対談録』(すべてブライトフィート)、『真・報連相で職場が変わる』(共著・新生出版)、通信講座『仕事ができる人の「報連相」実践コース』(PHP研究所) など。