人的資本の価値を高めるには~定量的アプローチと定性的アプローチ
2022年4月18日更新
人の意識や能力には伸縮性があります。そうであるならば、人の潜在力を可能最大限に引き出すことが組織の業績向上、個人の成長につながります。本稿では、昨今の人的資本に関する情報開示の動きや、効果的な人材開発の考え方についてご紹介します。
人的資本に関する情報開示
昨今、数ある経営資源(ヒト、モノ、カネ、時間、情報、等)の中でも、特に人的資本の重要性が高まっています。そうした背景を受け、国際標準機構(ISO)が2018年に人的資本に関する世界初の情報開示のガイドライン「ISO30414」を発表しました。
ISO30414は、組織に対する人的資本の貢献を考察し、社内外のステークホルダーに情報を開示することを目的に、11項目の指標(※1)指標から構成されています。
現時点で、日本では人的資本に関する情報の開示は義務付けられていません。しかし、欧米の動きを見ていると、今後はわが国でもISO30414の指標に沿った情報開示が求められる可能性は高いと考えられています。
※1 ①倫理とコンプライアンス ②コスト ③ダイバーシティ ④リーダーシップ ⑤組織風土 ⑥健康・安全・幸福 ⑦生産性 ⑧採用・異動・退職 ⑨スキルと能力 ⑩後継者計画 ⑪労働力の可用性
人的資本が注目される理由とは?
人的資本の重要性については諸説さまざまありますが、理解しやすく納得性のあるのは、「経営資源の中で、もっとも変化性に富んでいるから」という主張ではないでしょうか。つまり、モノやカネの価値はある程度固定化されているけれど、ヒトは、うまくマネジメントすれば、もっている意欲や潜在能力を現状よりも数倍高いレベルに引き上げることが可能になるのです。
ヒトを動機づけ、能力開発を施すと、「いい仕事」をするようになります。「いい仕事」とは、効率的に成果を上げたり、質の高い価値を生み出すような仕事のことを意味します。そして、「いい仕事」をすると顧客は満足します。顧客満足度が向上すれば、結果として企業・組織の業績向上につながるのです。
上記のようなフレームワークで経営活動を俯瞰すると、人的資本の価値を高めることの重要性が理解しやすくなるのではないでしょうか。
人的資本の価値を高める人材開発のあり方――定量的な観点
前述のISO30414の指標の9番目の項目が「スキルと能力」です。
そこでは、より具体的に、以下の観点から自社の情報を開示することが求められています。
- 人材開発・研修の総費用
- 研修の参加率
- 従業員1人あたりの研修受講時間
- カテゴリ別の研修受講率
- 従業員のコンピテンシーレート
人的資本の価値を高めるためには、こうした定量的な指標を設定し、成果を検証する取り組みがもちろん重要です。しかし、それに加え、どのようなテーマの人材開発・研修を実施するか、という定性的な指標も検討する必要があるでしょう。
人的資本の価値を高める人材開発のあり方――定性的な観点
VUCAの時代と言われる現代においては、善悪を見極める判断力や先を見通す洞察力、人や組織を動かす人望力などの重要性が増しています。そうした力、すなわち『人間力』は、その人のものの見方・考え方や生き方に起因するものであり、先天的な要素が大きいので、学習することは困難であると考えられてきました。
しかし、昨今のリーダーシップ研究や能力開発の領域において、この種の能力の開発は可能であることがわかってきました。
『人間力』と各種能力の構造
人間力はあらゆるスキルの土台になるものです。下図のように、土台がしっかりしていればこそ、その上に載せるスキルが安定し、機能するのです。
今後、AIの台頭が予想される産業界において、働く一人ひとりが、より人間らしさを発揮し、AIとは異なる強みを伸ばしていく必要があります。
そう考えると、「人間力」向上を目ざす教育・研修は今後の人材開発の必須テーマと言えるでしょう。
参考記事:「『人間力』とは? リーダーが『人間力』を高めるためのヒントや企業研修事例を紹介」
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部部長
1990年慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。