ダイバーシティ経営とコミュニケーション
2023年7月10日更新
組織における多様性が進めば進むほど、メンバー間の相互理解が重要性を増していきます。本稿では、ダイバーシティ経営下のコミュニケーションの取り方について考察いたします。
ダイバーシティ経営の副作用
職場のダイバーシティが進展し、一人ひとりの働き方や価値観、特性等の「違い」が顕著になってくると、お互いの意思疎通が難しくなります。
特にコロナ禍以降、上司や責任者の出した指示が組織の末端にまで届いていない、あるいはメンバーに正しく理解されていない、という嘆きの声を耳にする機会が増えてきました。
かつてのように職場の同質性が担保されていた頃と異なり、多様性が拡大した現在は、相互のコミュニケーションが取りにくい時代になったと言えるでしょう。
参考記事:ダイバーシティの推進~人的資本経営を実践する│PHP人材開発
参考記事:ダイバーシティ研修とは? 注目される背景や実施で得られる効果を解説│PHP人材開発
伝える≠伝わる コミュニケーションが成立するには?
労働力不足を背景に、各企業のダイバーシティ経営は今後、より一層進展するでしょう。多様な意見・価値観を受け入れつつ、こちら側の意思や、もっている情報を伝達する上で理解しておくべきは、「伝える」と「伝わる」の両者の意味の違いです。
「伝える」とは、情報を発信する側の行為のことを意味し、「伝わる」とは、情報を受信する側の状態を表します。職場のコミュニケーションにおける目的は「伝わる」状態をつくることであり、そのための手段が「伝える」行為なのです。しかし、「伝える」行為さえすれば、自動的に「伝わる」状態になるというわけではありません。つまり「伝わる伝え方」をしないとコミュニケーションが成立しないのです。
伝わる伝え方 3つのポイント
ではどうすれば、伝わる状態ができるのでしょうか。伝わる伝え方について、以下の3つの観点から、そのポイントをご紹介します。
1.Iメッセージで伝える
情報を発信する際、自分の思いをことばにのせることです。「私はこう考える」「私はこうしてほしい」というように「私」が主語に来る「Iメッセージ」を使うと、相手の心を動かしやすくなります。
2.ストーリーで伝える
忙しい職場ほど、何らかの情報を伝える際、大事なところを切り取って、そこだけを伝えてしまいがちです。しかし、その情報がもつ本当の意味や重要性は、削除・割愛された前後の文脈を知っていないと理解できないケースが多いものです。相手の理解度・共感度を上げるためには、全体像をストーリー性をもって伝えることが重要になります。
3.繰り返し伝える
「教育の本質は反復・継続である」と言われていますが、職場のコミュニケーションにも同じ側面があります。大事なこと、必ず理解してほしいことは、繰り返し伝えて、メンバーの意識の中に刷り込みを行うのです。チームづくりに長けたリーダーは、重要なメッセージを繰り返す「しつこさ」をもっています。
大切なことは双方向のコミュニケーション
「伝わる伝え方」について、3つのポイントをご紹介しました。
しかし、これらはそれを実践したからといって、即座に効果を発揮するものではありません。上記3つめのポイントでも述べた通り、効果が出るまでにはそれなりの回数と時間を要するものです。
したがって、「今、相手はどのような状況なのか」「伝わる状態に近づいているのか」、確認する必要があるのです。そして、そのためには相手の側に歩み寄り、どういう理解・解釈をしているかを聞いていかなければなりません。
よきコミュニケーションは双方向性を伴うものです。こちらの思いや情報を伝えると同時に、相手の反応をよく観察する。また、相手の気持ちや考えを聴くと同時に、こちらの受け止め方をフィードバックしていく。こうしたやりとりを継続することで、職場のコミュニケーションの質が高まっていくでしょう。良質なコミュニケーションがあって、初めて組織のダイバーシティとインクルージョン(一体性)が両立するのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。