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エフィカシーとは? 測定方法と高め方を解説

2024年1月15日更新

エフィカシーとは? 測定方法と高め方を解説

「エフィカシー」は、「セルフエフィカシ―」として使われることが多く、日本語では自己効力感、有能感、自信等のことばで表現されます。昨今、若い世代を中心に自己肯定感の低い人が増えていることが社会的な問題となっています。なぜ、自己肯定感が低下するのか、またどうすれば高いレベルにもっていけるのか、本稿ではエフィカシーの概念を用いながら、そのポイントを解説します。

INDEX

エフィカシーとは

「エフィカシー」(Efficacy)とは、スタンフォード大学のバンデューラ教授が提唱する概念で、和訳すると自己効力感、有能感、自信等のことばで表現されます。
人が何らかのアクションを起こすとき、「自分にはできる」「きっとうまくいく」という自信やポジティブ感情をもてればチャレンジングな行動が誘発されます。したがって、エフィカシーの高い人びとの集団は、新しいことや難しいことにも積極果敢に挑戦していくのです。

セルフ・エフィカシーとセルフ・エスティームの違い

セルフ・エフィカシーと似た言葉にセルフ・エスティームがあります。セルフ・エスティームとは、「ありのままの自分を肯定できる状態」のことです。日本語では、自己肯定感と呼ばれています。セルフ・エスティームは他者と比較することなく、自己を尊重することで生まれ、たとえ失敗してもありのままの自分を受け入れられるのが特徴です。

セルフ・エフィカシーは、自分には目標を達成するための能力があると強く信じている状態を指します。一見すると、セルフ・エスティームと意味が似ているように思えるかもしれません。しかし、セルフ・エフィカシーは「自己の能力」、セルフ・エスティームは「自分の存在価値」に焦点が当てられており、自分をどのように捉えるかという点に違いがあるのです。

エフィカシーが企業に与える影響

ここからは、社員のエフィカシーが企業に与える影響について詳しく解説します。

エフィカシーが高い人が企業に与える影響

エフィカシーが高い人は、困難な状況でも怯まずに挑戦できるという特徴があります。予測が困難なVUCA時代において、今までのやり方が通用しないことも多いものです。しかし、エフィカシーが高い人は、タフな精神を有し、自分の能力を信じて困難に立ち向かい、成功への道を切り拓いていけます。ストレスの多い状況でも実力を発揮できるため、目標達成や業績向上につながる可能性が高くなります。

また、諦めずに困難に立ち向かう姿は、ほかの社員にも良い影響をもたらします。チーム全体が「自分たちならできる!」というモチベーションの高い状態にあれば、生産性の向上につながります。

一方で、チームの信頼関係がないと、周囲の社員が一歩引いてしまったり、エフィカシーが高い人とそうでない社員との間に温度差が生じてしまうことがあります。エフィカシーが高い人をお手本とし、チーム全体の「組織効力感」が生まれるような風土づくりも大切です。

エフィカシーが低い人が企業に与える影響

セルフ・エフィカシーが低い人は、失敗を恐れて挑戦を避けたり、行動する前から諦めたりする特徴があります。自分の能力に自信がなく、ネガティブな思考に陥りがちです。実は能力や可能性を秘めていても、自分を過小評価して本来の力を発揮できません。

課題に対して「失敗してしまうかも?」と思うと、必要なリスクをとれなかったり、従前の成功例に固執してしまうかもしれません。そのような姿勢では、企業経営にインパクトを与える改善やイノベーションは生まれにくいものです。
加えて、日頃から否定的な発言があれば、ほかの社員の士気を下げてしまう可能性があります。

エフィカシーが低い人でも、行動や考え方を変えることでエフィカシーを高めることができます。その方法については、後の章で解説します。

エフィカシーの3つのタイプ

エフィカシーは、3つのタイプに分類できます。それぞれのタイプが企業にどのような影響を与えるのかを詳しく確認していきましょう。

自己統制的自己効力感

自己統制的自己効力感は、自分ならばできると信じて行動できる感覚のことです。問題に直面したり新たな挑戦が必要だったりする場面でも、前向きに考えて前進できます。業務遂行や目標達成に向けては、この自己統制的自己効力感を高めることを目指します。

社会的自己効力感

社会的自己効力感は、対人関係を構築するなかで役立つ感覚です。社会的自己効力感が高い人は、過去の経験から、他者に共感して寄り添い、うまくコミュニケーションを図ることができます。自分と関わる人たちと良好な人間関係を築き、社会の中でうまく立ち回れるのです。
ビジネスにおいても上司や同僚、取引先などと積極的に関わり、早い段階から良好な関係性を構築できます。また、ほかの社員に敬遠される気難しい相手でも、「自分ならばうまく関係を構築できるはず」と考え、自ら声をかけて距離を縮められるのです。

学業的自己効力感

学業的自己効力感は、学業に関する自己効力感です。たとえば、過去に難しい資格に合格した経験があれば、「さらに難しい資格にも挑戦できる」、「自分ならば理解できる」と考えられます。学業的自己効力感は学業における達成感によって育まれ、大きな成果を残した人ほど高まるようです。
ビジネスでは新しい知識やスキル、ノウハウの獲得などが必要な場面で力を発揮します。社員のリスキリングやキャリアアップにつながるため、企業の人づくりにおいて重要な感覚です。

エフィカシーの評価方法

社員によって、どの程度のセルフ・エフィカシーをもっているかは変わります。セルフ・エフィカシーを測定するには、一般性自己効力感尺度(General Self-Efficacy Scale)が有効です。

一般性自己効力感尺度

(問)以下の10の文章は、あなた自身についての本当かまた本当ではない記述をしています。1から4の尺度を使い、それぞれにもっとも当てはまる記述の数字を書いてください。返答では心を開いて正直に答えてください。

1:全く当てはまらない、2:ほとんど当てはまらない、3:ある程度当てはまる、4:とても当てはまる

  • 私は、一生懸命がんばれば、困難な問題をいつでも解決することができる。
  • 私は、誰かが私に反対しても、自分が欲しいものを手にするための手段や道を探すことができる。
  • 目的を見失わず、ゴールを達成することは私にとって難しいことではない。
  • 予期せぬ出来事に遭遇しても、私は効率よく対処できる自信がある。
  • 私はいろいろな才略に長けているので、思いがけない場面に出くわしても、どうやって切り抜ければよいのかわかる。
  • 必要な努力さえ惜しまなければ、私はだいたいの問題を解決することができる。
  • 自分の物事に対処する能力を信じているので、困難なことに立ち向かっても取り乱したりしない。
  • 問題に直面しても、いつもいくつかの解決策を見つけることができる。
  • 苦境に陥っても、いつも解決策を考えつく。
  • どんなことが起ころうとも、私はいつもその事に対処することができる。

各回答の点数を合計します。より高い数値ほど効力感を表します。

出典:Generalized Self-Efficacy scale(Schwarzer & Jerusalem, 1995)
PHP通信ゼミナール『レジリエンスの高め方 入門コース』

エフィカシーを高める4つの方法

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エフィカシーを高めるには、以下の4つの手法が効果的であるとされています。(※1)

 

1.達成体験

特定の課題に取り組み、自分の力で達成したという体験を積むことが大きな自信につながります。もちろん、達成するまでの間に失敗することもあるでしょうが、途中でやめずに行動し続ける必要があります。そのためには、寄り添いながら伴走してくれるメンターの存在が重要になります。

2.代理体験

自分と同じような状況の人が達成する様子を見ていると、「自分にもできる」という感覚が高まります。チーム内で情報交換を密にして、お互いの成功体験を共有することは、チーム全体のエフィカシーを高める効果をもたらすでしょう。

3.社会的説得

他者からのポジティブなフィードバック、承認を受けることでエフィカシーは高まります。ただし、フィードバックや承認は適時適切に行わないと、エフィカシー向上効果は限定的になります。指導的立場にある人たちに対するコミュニケーションスキル強化の教育は必須と言えます。

4.情動的喚起

精神状態を落ち着かせるための自分にあったルーティンを習慣化することでエフィカシーは高まります。アスリートが試合の前に、それぞれのルーティンを行うのも、意識を集中させる効果があるからです。

※1 参考文献:『心理的資本をマネジメントに活かす』関本浩矢、橋本豊輝著(中央経済社)

自己肯定感が低い日本の若者

エフィカシーと近似した概念に自己肯定感があります。内閣府が公表した令和元年(2019年)版「子ども・若者白書」では、日本の若者の「自己肯定感」が低いことが指摘されています(下図参照)。特に欧米6か国との比較では最も低いという結果が出ました。自己肯定感が低い状態であると、チャレンジすることもなくなりますので成長しませんし、生きがい、やりがいも感じられません。そういう若者が増えると、社会全体の活力が低下してしまうので大きな問題なのです。

自己肯定感

出典:内閣府・令和元年(2019年)版「子ども・若者白書」

自己肯定感とパフォーマンスの関係

人間は感情の生きものであり、どのような感情をもっているかによって行動の仕方が変わり、結果にも違いが出てきます。
米国の心理学者 ソニア・リュボミアスキー他の研究によると、幸福感の高い社員の生産性は31%、売上は37%、創造性は3倍高いことが明らかになりました(※2) 。
幸福感と自己肯定感は表裏一体の関係にあるので、社員の自己肯定感を高めることは仕事のパフォーマンス向上につながる重要なマネジメント課題と言えるでしょう。

※2 出典:『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』(ダイヤモンド社)2012年5月号

参考記事:自己肯定感とは? 低い若手社員の育て方を解説│PHP人材開発

まとめ:エフィカシーという概念がマネジメントの具体的な方法を提示する

組織は人から成り、人には心があります。したがって、一人ひとりの心の状態を高いレベルに維持向上することができれば、組織としてのパフォーマンスは上がります。
そのためのマネジメント上の具体的な方法を提示してくれるのが、社会科学のアプローチから生み出されたエフィカシーという概念なのです。

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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。

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