組織開発とは? PDCAの回し方や問題解決のための手法を紹介
2023年5月31日更新
組織開発とは、組織で働く人々の関係性を深め、組織を活性化させる取り組みです。人材開発が従業員個人を対象にするのに対し、組織開発は従業員同士の関わりにおける関係性の変化や相互作用に着目します。本記事では、組織開発とは何か、その概要や注目される理由、組織のパフォーマンス向上に向けたPDCAの回し方、人事部が実施すべき取り組みに役立つ7つの手法について解説します。
組織開発とは?
組織開発(Organization Development・OD)とは、組織で働く人同士の関係性に働きかけ、組織を活性化させて成長を促す取り組みです。組織の状況をよりよくする方法として人々の関係性に着目し、組織が抱える課題を明らかにしながら改革を進めていきます。
組織開発の目的は、 従業員一人ひとりが自ら課題解決に取り組む姿勢を持ち、 課題を解決して組織の生産性を上げることにあります。
組織によって課題は異なり、組織開発の手法もそれぞれ違います。組織開発は一度取り組んで終わりというものではなく、組織が成長していくため、継続して取り組まなければなりません。
組織開発とよく比較される言葉に「人材開発」があります。人材開発とは、従業員の能力を高め、成長を促す取り組みです。組織開発は従業員同士の関係性に着目し、組織としての成長を促すのに対し、人材開発は従業員個人を対象としています。個人の能力を高めることが組織の成長につながるという前提のもと、社員研修やOJT、自己学習(自己啓発)など、さまざまな手法で取り組んでいくものです。
組織開発と人材開発は、どちらか大切というわけではなく、企業や各部署の現状を把握しながら、課題に沿って取り入れていく必要があります。
組織開発が注目されている理由
組織開発が注目されている理由は、大きく分けて2つあります。ここでは、2つの理由について詳しく説明します。
働き方・価値観の多様化
組織開発は、1950年代に米国で生まれた概念です。日本で注目されるようになったのは比較的最近で、注目されている理由のひとつに、働き方や価値観が多様化していることがあげられます。
これまでの日本企業は、年功序列・終身雇用が当たり前で、企業全体の価値観のもとに上意下達で動くことが求められる傾向にありました。
しかし近年、グローバル化や雇用形態の多様化などにより、企業はさまざまな価値観を持つ従業員で構成されるようになってきています。働く人一人ひとりの違いを認めて受け入れ、活かし合う「ダイバーシティ&インクルージョン」が推進されるようになりました。従来のように、新卒一括採用で画一的な人材を育て、同質性の高い社員で組織がつくられる時代は過ぎ、社員一人ひとりの強みを活かして伸ばすマネジメントが必要とされているのです。それを推進するアプローチとして、組織開発が注目されています。
コミュニケーションの希薄化
組織の力を高めるには、メンバーが一つのビジョンのもとに個々の力を最大限発揮し、目標達成に向けてお互いに協力することが欠かせません。そのためには、メンバー間のコミュニケーションが重要になってきます。
しかし近年は、Web会議システムやチャットツールを導入する企業が増え、テレワークの普及によって従業員同士が直接対話をする機会が減っています。ITによる効率化で、社員一人、あるいは自部署内だけで完結する仕事が増え、従業員同士が協働する機会も減って、関わりも少なくなるなっているといわれます。このまま、求心力を高めるような取り組みをしなければ、組織の一体感は徐々に失われていくでしょう。
こうした状況を踏まえ、チームワークや協力し合う組織風土を取り戻すアプローチとして、組織開発が注目されているのです。
組織開発のPDCAサイクル
組織開発を成功させるためには、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Action)を回して推進する必要があります。ここでは、その具体的な方法について紹介します。
1.目的を明確化し計画を立てる
組織開発を進めるには、目的の明確化が重要です。組織ごとに課題は異なり、組織開発のゴールも会社ごとに異なるためです。まず、何をゴールにするかを明確に定めなければなりません。
「社内コミュニケーションが不足している」「部署間の連携がうまくいっていない」など、課題を抽出し、組織開発の目的を明確にしていきましょう。
そのためには、まず組織の現状を把握する必要があります。ただ印象で判断するのではなく、ヒアリングやアンケート、従業員満足度調査などを行い、見えにくい従業員の関係性などもしっかり洗い出しましょう。
現状の洗い出しにより解決すべき課題が明らかになり、取り組むべき内容が明確になります。
収集した事実やデータが従業員個人の課題であっても、組織の課題として捉えることが大切です。あくまで組織内の関係性に注目して課題を設定しましょう。
2.スモールスタートでアプローチする
設定した課題をもとに、はじめは短期的な計画を策定してスモールスタートのアプローチをします。組織開発自体は中長期的に取り組みますが、最初は試験的・小規模な実施で効果を確かめていきましょう。
スモールスタートのアプローチでは、「定期的なミーティングで工夫・改善していく」「ワークショップで従業員の認識を共有する」といった取り組みを行います。組織開発の主体は組織に属する個々の従業員であり、すべての従業員を巻き込み、組織開発の必要性を共有することが大切です。
スモールスタートからのアプローチには、本格的な運用を始める前に、効果や問題点を把握できるというメリットがあります。計画を策定する際は、検証しやすいよう、数値化できるものとできないものを意識するとよいでしょう。
小さなグループ単位で成果を出したら部門全体へと進み、さらに全社による取り組みへと段階的に展開します。中長期的な視点を持ち、腰を据えて取り組むことが重要です。
3.計画に対するフィードバックを実施する
スモールスタートのアプローチを実行したら、効果検証とフィードバックを行います。効果があった場合は何が良かったのかを確認し、ない場合は原因を明らかにしましょう。スモールスタートであれば、素早い効果検証とフィードバックが可能です。
検証と行動を繰り返してデータを蓄積することにより、全社的な組織開発の取り組みに役立ちます。
フィードバックは、具体的な組織開発の取り組みについて経営層や従業員が理解を深める役割をします。そのため、推進主体は積極的に情報発信をしていくことが大切です。検証結果をフィードバックする際は、良かった点をより多く伝えるとよいでしょう。モチベーションアップにつながり、改善策を立てる意欲へとつながります。
4.成功事例を共有・展開する
スモールスタートの取り組みをいくつか進行させるなかで、成功した事例は全社に共有しましょう。ただ成功事例を伝えるだけでなく、解決に向けたプロセスや得られた成果などを分析・整理し、ポイントを伝えることが重要です。
プロセスや成功した理由などを知ることで、チームとして何に取り組めばよいかがわかります。スモールスタートで実施した施策で期待した効果が得られるようになったら、組織全体に展開していきましょう。
スモールスタートで起こった問題は必ず洗い出し、施策をブラッシュアップしておくようにしてください。小規模の組織開発で明らかになった課題は、規模が大きくなるとより深刻になる可能性があるためです。組織開発が全社的な取り組みに移行したあとも、引き続き効果測定を行い、施策をよりよいものにしていきましょう。
PDCAサイクルを回しながら組織開発の中長期的な取り組みを行うことで、組織全体が活性化します。組織風土の変化や、従業員エンゲージメントの向上にも役立つでしょう。
参考記事:PDCAサイクルを回せる人材を育てるには?│PHP人材開発
組織開発のための代表的な7つの問題解決手法
組織開発を進めていくうえで、問題解決に役立つ手法があります。手法を上手に活用することで、組織開発をより円滑に進めることが可能です。ここでは、代表的な7つの問題解決手法を解説します。
コーチング
コーティングとは、従業員本人の気づきを重視する手法です。一方的な指導で答えを与えるティーチングとは異なり、コーチングでは双方のコミュニケーションにより従業員自ら答えを導き出せるようサポートします。組織のマネジメントにおける人材開発手法として、多くの企業で取り入れられています。
コーチングの実施では、従業員のなかに課題に対する解決策があるという前提が必要です。ヒアリングや提案を行いながら相手が安心して話せる環境を作り、内面にある答えを引き出すことで課題の解決へと導きます。
コーチングの活用で従業員のモチベーションアップやコミュニケーション力の向上が図れるとともに、チームビルディングなど組織の関係性強化を図ることができるでしょう。
参考記事:ビジネスコーチングとは? その目的、メリット、求められるスキルを紹介│PHP人材開発
ミッション・ビジョン・バリュー
ミッション・ビジョン・バリューとは、企業理念を形成する3つの要素です。組織を成長させる基礎となるもので、組織開発の推進に欠かせません。
「Mission(ミッション)」「Vision(ビジョン)」「Value(バリュー)」の頭文字をとり、MVVとも略されます。
ミッションとは、企業が果たすべき使命や存在意義を指します。なぜこの企業・組織が存在するのか、社会にどのような貢献をするのかなどを明らかにしたものです。
ビジョンとは、企業の理想像や中長期的な目標のことです。ミッションを実現するため、企業はどのような目標をもつかを明らかにします。
バリューとは、ミッションやビジョンを達成するための具体的な行動指針・行動基準です。従業員の行動・判断の基準となる価値観を表します。
ミッション・ビジョン・バリューを明確にすることで、社員の組織に対する帰属意識を高め、意思決定を促すなどの効果があります。ミッション・ビジョン・バリューの浸透により企業の目指すべき方向が明らかになり、組織開発を推進しやすくなるでしょう。
AI
「AI(Appreciative Inquiry)」とは、直訳すると「価値を見出す質問」という意味になります。個人と組織における強みや成功要因を発見し、価値を最大限に活かした仕組みを生み出す手法です。自社の強みを活かすことで、組織の理想像やビジョンを実現するための改善プロセスを明らかにします。
まず、価値を見つける質問を投げかけて人材や組織の持つ強みを発見し、活用しながら目標を達成するというアプローチです。
具体的には、以下のように進めます。
1.組織の課題を取り上げる
2.課題を解決するため必要な「良いところを見つける質問」「成功要因を見つける質問」を投げかけ、人や組織の価値を見つける
3.価値を見つけることで、メンバーの間にポジティブなエネルギーを生み出す
4.ポジティブなエネルギーで、作り上げたい理想の状態を描く
5.理想の状態を生み出すために何をするかを考え、現状にある問題の解決策を考える
6.何をするかが決まったら、計画を立てて実行する
一連の流れはポジティブに進むため、組織風土もポジティブに変わることが期待できます。
ワールドカフェ
ワールドカフェとは、カフェのようにくつろいだ雰囲気のなかで対話し、問題を解決する手法です。グループを少人数に分け、自由に会話を行います。メンバーを入れ替えながら対話を行うことで、従業員全員の意見を聞くことが可能です。会議では重苦しい雰囲気になることも多く、自由に意見を発言できない従業員もいます。
しかし、ワールドカフェであればリラックスした雰囲気のなかで自由に発言できます。自分の意見を否定されないことで安心感が生まれ、気軽に意見やアイディアを出すことができるでしょう。
具体的な進め方は、まず4〜5人のグループを作ります。自由な意見交換で出た意見・アイデアは、紙やホワイトボードに書き出します。20~30分ほど議論を行ったら、テーブルホストとなる1人を残して別のテーブルに移動し、ほかのメンバーと再び話し合いを始めるという流れです。
ワールドカフェでは多くの意見を集めることができ、新しい考え方や意見を生み出せるというメリットがあります。
OKR
OKRとは「Objectives and Key Results」の略で、目標管理手法のひとつです。「達成目標(Objectives)」と目標の達成度を測る「主要な成果(Key Results)」を設定し、企業・チーム・個人が同じ課題に取り組めるようにします。
OKRを設定する際は、確実に達成できる目標よりも一段階上のゴールを設定することがポイントです。難易度の高い目標を設定して取り組むことで、これまで以上の成果を出せることを狙います。
OKRを導入することで企業と従業員が進むべき方向性がひとつになり、取り組むべき課題が明らかになるのがメリットです。大きな目標に向けた取り組みはより力を発揮しようと努力するため、たとえ完全には目標を達成できなくても高い成果をあげる可能性があるでしょう。
7S
7Sとは、組織運営に欠かせない7つの経営資源について相互関係を表し、組織を分析する手法です。大手コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーが生み出した手法で、「マッキンゼーの7S」とも呼ばれています。
7つの「S」はハード面とソフト面に分かれます。
【ハード面のS】
・戦略(Strategy)
・組織構造(Structure)
・システム(System)
【ソフト面のS】
・人材(Staff)
・スキル(Skill)
・スタイル(Style)
・共通の価値観(Shared Value)
組織変革に取り組むには、戦略や組織構造などのハード面と、人材やスキルなどソフト面の両方から改善を図ることが必要とする手法です。
7つの経営資源の観点から組織の現状を考え、自社が目指す在り方とのギャップを診断して事業戦略を練ることができます。組織開発など、経営戦略を練る際にも役立つ手法といえるでしょう。
フューチャーサーチ
フューチャーサーチとは、多くの関係者との大規模な対話を通じた組織開発の手法です。システム全体に対するアプローチであり、従業員だけでなく、顧客や取引先などできるだけ多くの関係者を一堂に集めて行います。
お互いの立場を越え、特定のテーマについて話し合いながら、将来の目指したい姿や行動計画を作る方法です。
参加者は企業の過去・現在・未来について時系列を意識しつつ対話を行い、共通の価値観を見出していきます。外部からの意見も取り入れながら組織開発できるのが特徴です。
フューチャーサーチは、AIやワールドカフェと同じく、ホールシステム・アプローチと呼ばれる手法のひとつです。どれも関係者が一堂に集まり、話し合いを行うことでさまざまな問題解決につなげるという点で共通しています。
まとめ:組織の問題を明確にしより良い組織を目指そう
組織開発は、組織で働く人同士の関係性に着目した問題解決の手法です。関係性を変えることで組織の課題を解決し、組織全体を成長させていきます。
取り組みではまず短期的で小規模なスモールスタートを行い、PDCAを回しながら改善を図ります。成功事例を共有しながら、全社的な取り組みへと拡大していきましょう。組織開発で課題を解決し、より良い組織を目指してください。