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「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」で主体性とチームワークを引き出す

2022年8月 3日更新

「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」で主体性とチームワークを引き出す

「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」の制作を手がける松永直樹氏に、松下幸之助(パナソニック創業者)の経営理念の世界をどのようにゲーム化し、実践に資する作品につくり上げようとしているのか、その挑戦について話を聞いた。

INDEX

「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」について詳しくはこちら

はじめに

2016年1月、高名なスティーブン・R・コヴィー博士の著書『7つの習慣』(キングベアー出版)の要素を取り入れたボードゲーム「7つの習慣ボードゲーム」がリリースされた。この作品は、ボードゲームになじみの薄い日本のビジネスパーソンに新たなゲームの面白さと学びの機会をもたらし、絶大な支持を得たことで話題となった。
そのゲームデザインを担当した松永直樹氏は今、新たに「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」の制作を手がけている。経営者個人の経営理念の世界をどのようにゲーム化し、実践に資する作品につくり上げようとしているのか。
渡邊祐介(PHP理念経営研究センター代表)がその挑戦をレポートする。

なぜボードゲームの制作に至ったか

経営理念をどのように組織に浸透させ、実践につなげるかということには、多くの経営者が頭を悩ませている。その対策として、実際、様々な工夫がなされてきた。社歌を歌う、理念を唱和する、面談をする。研修はもとよりのことである。
だが、"知っておいてもらわないと困る"といった「押しつけ感」が伴ってしまうと、かえって社員の反発を招くこともありうる。そういう意味でも、ボードゲームによって「押しつけ感」なく自然に経営理念に親しみ学べる機会が生まれることは、経営者にとって非常にありがたい。

2016年の春先、弊社の研修を受講する若い経営者たちから、こんな会話のやり取りがよく聞かれた。

A:「あれ、やってみた? 『7つの習慣ボードゲーム』、面白いなぁ」
B:「やった、やった」
C:「何それ?」
A:「知らない? 面白くていろいろ学べるから、まずとにかくやってみるといいよ」

その「7つの習慣ボードゲーム」は若いビジネスパーソンのあいだでとても評判だそうで、全国各地でゲーム会も催されているという。

その後、筆者のもとにも、共同でプロジェクトを推進していた大手書店グループのプロデューサーが訪ねてきて、「7つの習慣ボードゲーム」の斬新さを絶賛したうえで、「ぜひとも松下幸之助版のボードゲームを制作すべきだ」と強く勧められた。こうした経緯があって、筆者もほどなく部下2人とともに「7つの習慣ボードゲーム」を体験してみることにした。

実際にやってみると、評判となった理由がすぐにわかった。サイコロを振ってコマを進めるため、運任せでゴールを目指して楽しむゲームかと思いきや、さにあらず。個人的な思惑だけで先に進もうとしてもゴールできないようになっていて、他のプレイヤーと"交渉"を重ねながら進まないといけない。それがプレイヤー同士の盛り上がりを高める画期的な仕組みになっていた。さらに自社の同輩たちとゲーム会を重ねるうちに、短時間で参加者間の関係性を強めるという、大きな効果があることも実感した。

この「7つの習慣ボードゲーム」にすっかり魅了されてしまった筆者と弊社の研修担当者が開発者の松永直樹氏を訪ねたのは、2018年のことである。6歳のときに「人生ゲーム(R)」と出合って熱中したという松永氏は、中学生の頃に、最も世界的権威のある賞を受賞したゲーム「カルカソンヌ」の面白さに感動し、以後、青春をボードゲームに注ぎ込んだ人物だ。大学3年生のときにドイツで開催される世界最大のボードゲームの祭典「シュピール」に参加したところ、日本ではマニアックと見られがちなボードゲームが海外では老若男女で楽しまれていることに衝撃を受け、帰国後、「ボードゲームソムリエ」として活動を開始した。やがてボードゲームデザイナーを兼ねるようになったのも自然な流れであった。

以上のように「7つの習慣ボードゲーム」の成功と松永氏のバックグラウンドからボードゲームに大きな可能性を感じた筆者たちは、経営理念を実践に生かすための一つのツールとして「松下幸之助をテーマとしたゲーム」が成立しうると考え、松永氏にその制作を依頼したのである。

松永直樹氏に聞くボードゲームの可能性

開発から4年目を迎える今、「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」というかたちでようやく完成を目前に控えるまでになった。理念浸透という課題にボードゲームはどこまで迫れたのか。制作を担った松永直樹氏に、ボードゲームの本質と開発の工夫について話をうかがった。

――私どもPHP研究所からの依頼で、パナソニックグループ創業者・松下幸之助の経営哲学、理念をテーマとしたゲームの制作に取り組んでいただき、完成も目前となりました。個人の、しかも経営者の精神世界をゲーム化するというチャレンジについて、率直な感想をお聞かせいただけますか。

松永 このゲームを制作するにあたって松下幸之助さんの本をたくさん読みました。その中で最も心に刺さったのは、松下さんが「使命感の共有」と「人間関係の質の向上」に大変重きを置かれていたことです。ビジネスにおいて強い現場力を生み出すためには人間関係の構築が大切であり、知識も実践知が問われている。だからこそ、先の展開を読んで他のプレイヤーと協力したりすることが重要な要素となるボードゲームと相性がよかったのだと思っています。

松下さんに関するいろんな資料を拝見して感じたのは、組織マネジメントへの思いの強さです。松下さんは創業経営者として、いかに人を生かすか、自分より他の人をどう動かすかというところに、すごくフォーカスされていると感じました。今回はそこをゲームの中心に据えたのですが、前例のない挑戦でしたので、これまで制作したボードゲームとは内容もシステムもテーマ性も大きく違ったものになっています。

――そういう意味では、ご苦労も多かったと思います。

松永 とはいえ、コロナの影響で制作が長引いたことが一番の苦労でした(笑)。
それ以外では、松下さんの資料があまりに大量で、その中から本質的なメッセージを決めるのがなかなか大変でした。テーマを決定するにあたって、それをボードゲームにする価値があるか、言い換えれば、それが新しいボードゲームの魅力となりうるのか。そのあたりを見極める作業が重要ですから。

―― 今回のゲーム制作におけるポイントは何でしょうか?

松永 ボードゲームは社員研修においても用いられるように、本来、マネジメントとの相性はいいといえます。ただ、時代の趨勢として、マネジメントでもAIが人に代わって管理をカバーし、人間は管理よりも決断や選択を担うことに特化しつつある。だから、今回のボードゲームにおいても「選択」の要素が強く出る内容になっています。実際、ビジネスパーソンの日常は選択の連続ですので、その視点をうまく体現できるようにゲームのルールをつくってみました。
あと、御社で松下さんの経営理念を「5つの原則」という研修セミナーのかたちでメソッド化されていたことが制作を進めるうえですごく大きかったです。その体系がゲームの骨格になりましたから。もし「5つの原則」の体系がなかったら、ゲームに合う要素だけを組み合わせたものになってしまっていたかもしれません。
この作品が松下さんの世界観を体験できるゲームに仕上がりつつあるのは、メソッドの有効性をしっかりと取り入れることができているからではないかと思います。

――「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」も3年以上の制作期間を経て、完成間近です。ここまで制作に尽力されてきて、完成への手応えはいかがでしょうか?

松永 ボードゲーム制作においては、実際に何度もやってみてゲームの要素の組み合わせを調整することが最も難しく、その分時間もかかります。なおかつ、試技を重ねれば重ねるほどゲームの仕組みは洗練されていきますが、どれぐらいやれば十分ということはありません。実際のところ、完璧なゲームというのはなかなかないものです。
ただ、私の中にある「いいゲーム」の評価基準は、ゴールできなかった人、つまり負けた人が、それでも「面白かった」という感想を持ってくれるかどうか。それを私は一つの指標としています。

――「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」は、ボードゲームの可能性を開くものになるといえますか?

松永 私はゲームをプレイする空間そのものを大切にしていて、常に「このゲームの世界をこのメンバーで過ごす空間」をとにかく上質なものにすることを心がけてゲーム制作に臨んでいます。その点、今回のゲームはプレイヤー同士のインタラクション(交流、相互作用)を確実に向上させる作品になると確信しています。

理念浸透への新しい取り組みに

松永氏のインタビューから、「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」は、

(1)素材となる経営者の理念が体系化されていたこと
(2)その理念の中にゲームの要素が存在していたこと(人を動かすことなど)

があって成立したといえる。
それらがあったからこそ、空間の中でプレイヤー同士のインタラクションを確実に向上させるという、ボードゲームの本来の効果が生まれたのだ。実際、ボードゲームの試技を重ねた筆者も、これらの点は疑うところがなかった。誰しもゲームを始めるときは多少なりとも緊張するし、まだ盛り上がりにはほど遠い。ところが、サイコロを振ってコマを動かし、自分が最適と思う選択を一つひとつ行ない、ターン(手番)を重ねるごとに、いつのまにかゲームに没頭していって、その成果が他のプレイヤーをも刺激していく。すると、会話もおのずと交わされ、弾んでくる。

つまり、プレイヤー同士の関係性が極めて短時間のうちに高まっていくのである。それはエンゲージメント(信頼)の向上にほかならない。

では、さらに理念の浸透における効果についてはどうか。
実際のところ、それにはプレイヤーによって都度変化する部分があると思われる。これは自分のアクションを選択する際に、理念を認知しているかどうかが問われるという類いのものではない。
この点について松永氏は大事な指摘をしてくれた。曰く、経営理念の文言をゲーム中でプレイヤーにより深く理解させようという意識を強く持ちすぎない、ということである。そこにこだわるとゲームの空間が説教臭いものになり、楽しむことが阻害されるというのだ。

「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」では、幸之助の世界観を知ってもらうために、著書『実践経営哲学』(PHP研究所)の内容20項目が「使命感カード」に書き込まれている。それらのカードをプレイヤーがゲーム中のどういった状況で手にするかによって、その効果は大きく変わってくるのである。理念の意図することが大きな示唆を与えるかもしれないし、そのときの状況にそぐわないこともあるかもしれない。だが、いずれにせよ、ゲームの中でその言葉を口にする、あるいは他のプレイヤーのカードとして視認するだけでも、ゲームの世界観を形づくる経営哲学にプレイヤーは何がしかの刺激を受けるはずである。
経営理念に親しみを持てるようになり、その実践について心理的な負担を感じずゲーム感覚で考えることができる。そこに効果のポイントがあるのだ。

このゲームを研修に取り入れる場合は、ミーティングやフィードバックを組み込むことによって、その教育効果はおおいに高まるだろう。他のメソッドとの連携、もしくはテキストを読んでもらうなどすれば、理解がさらに深まっていくはずである。今後はこのような「理念浸透」への新しい取り組みがおおいに期待できるだろう。

「松下幸之助〈理念経営〉実践ゲーム」はPR効果も期待して、クラウドファンディングにより支援を募った。2022年7月31日の終了時点で、支援者数505人、支援総額13,587,498円と多くの支援が集まった。
数多くのビジネスパーソンにゲームの面白さと経営理念の学びを提供できることと確信している。

※本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』創刊号2022 SPRING 4-6の内容を一部再編集したものです。

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