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インクルージョンとは? 企業の取り組み事例や導入のポイントを解説

2022年10月 7日更新

インクルージョンとは? 企業の取り組み事例や導入のポイントを解説

人材開発においてここ数年で注目されるようになった概念に、インクルージョンがあります。企業にイノベーションをもたらすカギともいわれ、ダイバーシティ&インクルージョンとして日本でも成功事例がでてきいます。しかし、人事ご担当者のなかには、これから導入を検討する、あるいはどう取り組めばいいのか迷っている方もいるでしょう。そこで今回は、インクルージョンの概要や導入する際のポイント、参考になる企業事例をまとめてご紹介いたします。

INDEX

インクルージョンの定義、ダイバーシティとの違いとは?

近年は、女性の活躍推進や外国人雇用の促進、LGBTへの理解促進といった課題解決に頭を悩ます企業が少なくありません。そこで注目されているのが、ビジネスの場で多様な人材を活かすインクルージョンの考え方です。
ここでは、インクルージョンの定義、意味や、企業の経営課題として重要視される背景、ダイバーシティとの違いを解説します。

インクルージョンの定義

インクルージョン(Inclusion)とは、日本語に直訳すると「包括・包含」という意味があります。包括は全体をまとめることであり、包含は中に含むことを指します。
人材開発において注目されるインクルージョンの定義は、性別や年齢、国籍、性格、学歴など、さまざまな属性の違いを受け入れ、それを活かして活躍できる場を与えるという考え方です。
具体的な取り組みとしては、女性の活躍推進や外国人雇用の促進、高齢者や障害者の活用、LGBTへの理解促進、多様な働き方制度の整備などがあげられます。

インクルージョンが重要視されている背景

近年インクルージョンの考え方に注目が集まる背景には、価値観の多様化や労働人口の減少、グローバル化の進展といった企業をとりまく状況があります。順に解説します。

1.価値観の多様化

インクルージョンが重要視される理由のひとつは、価値観の多様化です。ひと昔前までは、新卒一括採用によって同じような価値観を持った同質性の高い人材を採用し、定年まで終身雇用するというスタイルが一般的でした。しかし、近年では、労働市場の流動化によって、より良い条件を求めて転職する人材は珍しくありません。また、仕事よりもプライベートを重視する、マネジメント世代とは異なる価値観をもった若年層が増えています。
こうした働く人の価値観の多様化に対応するため、感染症流行の影響もあって、企業では在宅勤務やリモートワークなどの多様な働き方への対応を急速に進めてきました。インクルージョンの考え方は、職場で働く社員と在宅勤務やリモートワークで働く社員に対して、それぞれ平等に機会を与えるためにも重要だといわれています。
また、そもそも、組織に同じ働き方の、同じ価値観の人材ばかりがいたのでは、時代の変化にあわせたイノベーションを起こすことが難しい状態になります。そういう意味でも、多様な人材を活かすインクルージョンの考え方は、企業にとって重要になってきているといえるでしょう。

2.労働人口の減少

日本は世界のどの国よりも先に少子高齢化が進んでいて、優秀な人材の確保が難しいというのが経営の最重要課題になっています。企業は従来の男性中心の雇用方針を転換し、人材を確保をするための間口を広げる必要が出てきたのです。その結果、高齢者や女性などを積極的に雇用する取り組みが促進され、インクルージョンの考え方が重要視されるようになりました。

3.グローバル化の進展

1990年代以降、多くの企業は販売経路を広げるためにグローバル化を推し進めています。その結果、多様な人材の雇用が求められているのです。情報通信技術の進歩によって、中小企業であっても、独自のグローバル展開が不可能ではなくなってきています。
インクルージョンへの取り組みは、海外企業で日本企業の数年先を行っているという状況です。グローバル展開をする企業では、インクルージョンへの取り組みは喫緊の課題といえるでしょう。

インクルージョンとダイバーシティの違い

インクルージョンは、ダイバーシティ(Diversity)とセットで語られることがあります。ダイバーシティを直訳すると、「多様性」です。人材開発においては、異なる国籍や年齢、性別の人材が互いの違いを認め、それぞれが受容できる体制づくりに取り組むことを指すのが一般的です。

インクルージョンは「包括・包含」を意味し、多様な人材の特性が活かされている状態をいいます。通常、インクルージョンとダイバーシティは別の意味で使われる言葉です。しかし、多様な人材を活かして会社運営するには、インクルージョンとダイバーシティの両方をあわせて取り入れることが重要といわれています。

※参考記事:参考記事:ダイバーシティ研修とは? 注目される背景や実施で得られる効果を解説

ダイバーシティ&インクルージョンの概念

ダイバーシティとインクルージョンをあわせて「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進する企業もあります。ダイバーシティ&インクルージョンとは、性別や年齢、国籍、障がい、ライフスタイル、職歴、価値観などに関わらず、職場で働く一人ひとりを尊重し、互いに認め合い、良いところを活かすこと、とされています。
日本ではじめに紹介された考え方がダイバーシティですが、体制づくりの面に踏み込む部分が不十分といわれました。これをカバーするために注目されたのが、インクルージョンの考え方です。ダイバーシティ&インクルージョンは、国籍や年齢、性別などのあらゆる多様性を受容し、どのような人でも活躍できる機会を与えられる企業を目指す考え方といえます。

これまでダイバーシティ&インクルージョンの考え方は、欧米での活用が一般的でした。日本では、この取り組みが遅れているのが現状です。労働人口の不足や価値観の多様化などを踏まえると、ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みが必要不可欠であることは間違いありません。

ダイバーシティ&インクルージョンを推進する4つのメリット

ダイバーシティ&インクルージョンを推進するメリットは、次のとおりです。それぞれを確認していきましょう。

●社員のエンゲージメントが高まる
●社員の離職率を改善できる
●人材を獲得しやすくなる
●新しいアイディアが生まれやすくなる

  

1.社員のエンゲージメントが高まる

ダイバーシティ&インクルージョンを推進することで、社員のエンゲージメントを高められるメリットがあります。エンゲージメントを高められるのは、年齢や性別などが異なる社員一人ひとりが活躍できる制度や職場環境を整えられるためです。「自分は必要とされている」と仕事を通して実感できるため、会社に貢献したい気持ちが強くなります。

仕事へのモチベーションも高まるため、生産性や業務効率を向上できることも多いでしょう。ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みの第一歩は、全社的な方針として社内に周知することです。新入社員採用の場面だけではなく、既存の社員にも意義のあるものですから、社内周知を徹底することで、既存社員にも当事者意識を持って取り組んでもらえるようにしましょう。

2.社員の離職率を改善できる

中小企業を中心に、人材不足は大きな問題となっています。しかも、近年は転職に抵抗がない若年層が増えているため、「自分の価値観と合わない」と社員に感じられると離職される可能性があります。ダイバーシティ&インクルージョンに取り組めば、社員一人ひとりの考え方や価値観を尊重した雇用が可能です。

在宅勤務やリモートワーク、時短勤務など、社員のライフスタイルに応じた働き方を実現することで、社員の離職率を改善できます。さらに、出産や育児、介護など、社員のライフイベントに応じた制度を充実っせることで、さらに優秀な人材の流出を防ぐ一策となります。

3.人材を獲得しやすくなる

国内では、少子高齢化の影響によって、人材の確保が難しい状況が続いています。しかし、ダイバーシティ&インクルージョンを推進することによって、多様な人材が活躍する働きやすい職場づくりを進めているということを訴求できるようになります。実際、若い世代でも、就職先を決める上で、企業の「多様性や受容性の方針」を重要視している、という調査結果もあります。

また、女性の活用や定年の延長、外国人の採用、多様な働き方を認める制度を整備することによって、働き手を確保することもできます。たとえば、出産や育児、介護などでいったん一線から外れた人たちの中には、仕事に復帰したいものの両立するのが不安だと感じる人も少なくありません。ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む職場であれば、安心して応募してもらえる可能性も高いのです。
ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、さまざまな働き方を受け入れるための制度を整備すれば、多様な人材に定着してもらうことができるでしょう。それぞれの経験や能力活かしてもらうことができれば、これは、企業にとって大きな戦力となるでしょう。

4.新しいアイディアが生まれやすくなる

  

性別や国籍、年齢にとらわれずに多様な人材を確保することで、職場で新しいアイディアが生まれ、イノベーションが推進できるというメリットがあります。特に文化背景や価値観の異なる社員からは、これまでは考えつかなかったような新しい視点の意見が出ることも多いです。消費者から自社の商品・サービスを選んでもらうための、は競合他社との差別化にも有利に働きます。

また、既存の商品やサービスについて検討する場合にも、異なる立場だからこそわかる改善点も見えてきます。ダイバーシティ&インクルージョンの推進とともに、職場で誰もが意見を言える心理的安全性を確保することも重要になってくるでしょう。

企業のダイバーシティ&インクルージョン取り組み事例

欧米に比べると、日本はダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みが遅れているのが現状です。そのような状況でも、他社に先駆けて推進している日本の先進企業の事例をご紹介しましょう。

●パナソニック
●リクルート
●サイバーエージェント

事例1.パナソニック

パナソニックでは、「挑戦する一人ひとりが互いの個性を受け入れ、組織として活かしあうことでより高い価値を生み出し、社会へのお役立ちを果たしていきます。」といったダイバーシティ&インクルージョンを掲げています。

パナソニックが指す一人ひとりとは、性別や性自認をはじめとするあらゆる属性にとらわれない多様な個性を持つ社員のことです。具体的には、性別などにとらわれない仕事・役割等級制度、ワーク・ライフ・バランス支援、妊娠・育児中の社員へのサポート、介護中の社員へのサポートなどが整えられています。トップ方針を掲げて、インクルーシブな職場づくりを進めているのが大きな特徴です。

参考:パナソニック ホールディングス株式会社 Diversity, Equity & Inclusion

事例2.リクルート

リクルートはが大切にする価値観は「個の尊重」。ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの推進は、その価値観を体現することそのものとわれています。多様な従業員一人ひとりが能力を余すことなく発揮できる環境を構築することは、リクルートの競争戦略の一環と位置づけられています。

同社の具体的な取り組みとして、女性活躍支援があげられるでしょう。女性社員と、その上司を主な対象に、それぞれキャリア開発研修、マネジメント研修を実施しています。さらに、働き方変革・両立支援への取り組みや、LGBTQをはじめとするセクシュアル・マイノリティへの理解促進と、働きやすい環境づくりも進めています。2021年にはジェンダー平等の目標を掲げ、管理職要件の見直しやポスト開発が行われています。

参考:株式会社リクルート ダイバーシティ 方針・体制

事例3.サイバーエージェント

サイバーエージェントもダイバーシティ&インクルージョンを推進する先進企業のひとつです。年齢や社歴にかかわらず子会社の社長や執行役員のポストに抜擢する文化、個々人の強みに焦点を当てた人材活用を積極的に推進しています。

また、サイバーエージェントは女性活躍の推進に力を入れているのが特徴です。全社員の3割強を女性が占めており、管理職全体の女性比率は2割に上ります。さらに、ダイバーシティ推進プロジェクト「CAlorful」や女性活躍推進制度「macalon」等を通じて、多様なバックグラウンドを持つ従業員が互いに理解しながら中長期的にキャリアを築いていけるようサポートしています。

参考:株式会社サイバーエージェント│ダイバーシティ

ダイバーシティ・インクルージョンを導入する際のポイント

ダイバーシティ&インクルージョンの導入を検討する際に、注意したいポイントがいくつかあります。

●導入の目的とゴールイメージを社内全体に明確に伝える
●社員の意識を変化させる
●人事評価制度の最適化や体制整備を行う
●役職問わずフラットに提言できる社内風土を醸成する

それぞれのポイントを確認しましょう。

導入の目的とゴールイメージを社内全体に明確に伝える

ダイバーシティ&インクルージョンを導入するときは、導入目的や実現するまでの期限、ゴールイメージを社内全体に伝えることが大切です。特にゴールイメージを曖昧にすると、経営陣はもちろんのこと、既存社員にも認知してもらえません。
基礎知識がない社員もいるため、周知を徹底することが必要です。全員が理解した状態でダイバーシティ&インクルージョンを導入することによって成功率も高まります。社員だけでなく、経営陣やステークホルダーに対しても理解を深めるための働きかけを行うことが大切です。

社員の意識を変化させる

制度や体制を変えるだけでは、ダイバーシティ&インクルージョンの概念を社員全体に浸透させるのは難しいものです。また、ダイバーシティ&インクルージョンの概念を受け入れていないと、制度や体制を変えても状況が変わることはありません。
社員の意識を変えるためには、地道に現場での教育や研修を実施して理解を深めてもらうことが大切です。社員の意識が変われば、ダイバーシティ&インクルージョンの成功率も高められます。

人事評価制度の最適化や体制整備を行う

ダイバーシティ&インクルージョンを導入するにあたって、人事評価制度の最適化や体制整備を進めましょう。制度や体制を整備しないままであると、単なる声掛けで終わる可能性があります。たとえば、女性社員の活躍を支援するための産休・育休制度を整えたり、介護に関する支援制度を整えたりといった準備が必要です。また目に見えるところでは、車椅子に乗る社員のために職場をバリアフリーにしたりといったことがあげられます。
特に、多様な働き方を受け入れるためには、評価方法の見直しが欠かせません。在宅勤務や時短勤務など社員一人ひとりの働き方に対して、正しく評価できる人事評価制度の構築が求められます。

役職問わずフラットに提言できる社内風土を醸成する

ダイバーシティ&インクルージョンを導入する際には、年齢や役職に関わらず、誰もが安心して意見を言える風土づくりも重要です。人材や働き方が多様化しても、職場の心理的安全性が確保されず、社員一人ひとりが自分の考えを表現できない雰囲気では何も変わりません。一朝一夕にできることではありませんが、個人の能力を最大限に発揮してもらうためには、年齢や役職に関係なく提言できる職場風土を整えることが大切なのです。

参考記事:「心理的安全性」とは?「ぬるま湯組織」が若手社員の成長を阻む

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ダイバーシティ・インクルージョン導入の注意点

離職率の低下や社員のモチベーションアップなど、ダイバーシティ&インクルージョンは企業に良い影響をもたらしてくれます。しかし、ダイバーシティ&インクルージョンを導入することで、既存社員から反発を受けるという事例もあります。

これまで似通った価値観の社員ばかりで構成されていた職場に、新たな属性の人を受け入れるのは、そう簡単なことではありません。なかには、抵抗を感じて既存社員と新入社員の間で対立関係が生じる場合もあります。既存社員に受け入れてもらえるように、丁寧に伝えていくことが必要です。

参考記事:ダイバーシティ研修とは? 注目される背景や実施で得られる効果を解説

まとめ

人材や働き方の多様化が進む中、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を検討する企業が増えています。ダイバーシティ&インクルージョンの導入することで、企業には離職率の低下や社員のモチベーションアップなど多くのメリットがもたらされます。

しかし、ダイバーシティ&インクルージョンの概念を、経営トップやマネジメント層に浸透させるには、時間がかかることも多いでしょう。大きな反発を受けることすらあります。

このような場合は、各職場で教育・研修を実施して、ダイバーシティ&インクルージョンへの理解を一歩ずつ深めてもらうことが大切です。理解してもらうまでに時間はかかるかもしれませんが、丁寧に伝えていきましょう。

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