「コーチャブル」な組織風土を作るための3つのステップとは?
2023年7月24日更新
複雑化する経営環境の中で個人と組織を活性化するツールとしてコーチングが注目されています。本稿では、組織開発の観点からコーチングの可能性を探ると同時に、コーチャブルな組織風土を作る3つのステップを解説します。
組織開発とコーチング
コロナ禍を契機に一気に進んだテレワークの普及や、副業の解禁、育児休業を取得する男性従業員の増加等々、ここ数年で働き方の多様化がかなり進展しました。個人にとって働き方の選択肢が広がるというメリットがある一方、マネジメントの観点から言えば、組織と個人の間に遠心力が働き、両者のつながりが弱まるリスクが高まっています。
こうした問題意識のもと、組織力を高めるツールとしてコーチングにふたたび注目が集まるようになってきました。コーチングは「相手の可能性とやる気を引き出し、その人の自主的な前進をサポートするコミュニケーションスキル」であり、個人の成長支援が本来の目的でした。ただ、個人の「能力開発」と職場の「組織開発」は表裏一体の関係にあることもあり、コーチングがもつ組織開発の可能性に期待が寄せられているのです。
参考:コーチング、1on1、フィードバック 人材育成スキルの関係性を解説│PHP人材開発
チームコーチングの意味と可能性
組織開発を目的としたコーチングを「チームコーチング」と言います。チームコーチングはメンバー全員が主体的に取り組み、自らが様々な工夫をして目標を実現しようとする組織を作るための効果的な手法です。チームのメンバーはその特定の目標を実現するために個人の責任だけではなく、メンバー全員の連帯責任を負います。また、チームコーチはメンバーがグループからチームへ変容するプロセスを支援し「ビジョンの実現」「リーダーシップ開発」「企業業績改善」を創り出します。(※1)。
実際、多くの企業・団体でチームコーチングが導入され、バラバラだった組織が一体感を取り戻したり、ビジョンの実現に向かって全メンバーが一枚岩になったり、自律的な組織風土が醸成されるなど、組織力が向上する事例(※2)事例が報告されています。
※1 チームコーチ・ビジネスコーチ連盟の定義
※2 一般社団法人ビジネスコーチ・チームコーチ連盟 ケーススタディ
https://ntcf.or.jp/case_study/case01/
「コーチャブル」の意味。なぜコーチャブルな風土が求められる?
チームコーチングが創りだすのは、「コーチャブル(coachable)な風土」です。コーチャブルとは、「コーチング的視座に立ってお互いがリスペクトし合いながら対話を重視するスタンス」を意味します。そうした特性をもった風土ができると、共通の目標に向かってメンバーが協働するようになって、個人の成長と組織のパフォーマンス向上が両立するでしょう。
冒頭で問題提起した組織に働く遠心力を跳ね返すための解の一つが、コーチャブルな風土を組織に根付かせることです。
コーチャブルな組織風土を作る3つのステップ
コーチャブルな風土を作るためには、以下の3つのステップを踏む必要があります。
第1ステップ:相互理解の増進
まずは、上司-部下が相互の理解を深めるところから始めます。具体的には、隔週あるいは月に1度のペースで1on1面談を継続的に実施することです。相互理解が深まれば、相手をリスペクトする姿勢が自ずと強化されます。
第2ステップ:フィードバックの実践
第1ステップをクリアすると、信頼関係が構築されます。それをさらに強化するためには、こまめに承認(ポジティブフィードバック)することです。また、相手の成長を支援するためには、時には耳の痛い指摘(ネガティブフィードバック)を行う必要もあります。こうしたフィードバックが、上司⇒部下の一方通行ではなく、組織内のいたるところでタテ・ヨコ・斜めに飛び交う状態が理想の姿です。
第3ステップ:ビジョンの共有
どんな組織でも、果たすべき目標、目指す目的があって成立しています。組織を構成するメンバーがそれらの内容を理解し、その達成を強く意識することで組織力が上がることは自明です。自分たちの目指すもの、大切にしたいことを、組織内のあらゆるコミュニケーション(朝礼・夕礼、会議、全社方針発表会、1on1面談、ふだんの何げない会話等)を通じて語りあうのです。その際のポイントは、問いかけ調のコミュニケーション(例:「私たちの組織はなぜ存在するのか?」「お客さまは私たちに何を期待しているのか」)を心がけることです。そのほうが、指示命令調のメッセージよりも、深い内省を引き出すからです。
続けることの大切さ
ここまで、組織を取り巻く環境変化の現状を考察し、コーチャブルな風土を組織に根付かせることの重要性とその方法を述べてきました。しかし、風土というものは一朝一夕にでき上るものではありません。それ相応の期間が必要になることを覚悟したうえで、やるべきことを愚直にやり続けることが重要です。継続は力なり。やると決めたことをやり続けることで、少しずつ組織の風土が変わっていくでしょう。
的場正晃 (まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部兼人材開発普及部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年、PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年、神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。