若手社員のリーダーシップ開発~4つの視点と経験学習サイクル
2022年10月 3日更新
近年のリーダーシップ論では、若手社員のうちからリーダーシップ開発に取り組むことの重要性が指摘されています。ここでは、より効果的なリーダーシップ行動をとるための4つの視点と、経験学習サイクルをご紹介します。
若手社員がリーダーシップを高めるための4つの視点
若手社員が職場でより良いリーダーシップ行動を取れるようになるためには、4つの視点から自身を磨き高める必要があります。その4つとは、具体的には「リーダーシップの基礎理解」「倫理性・市民性」「自己理解」「専門知識・スキル」を指します。これらを高めることで、より効果的なリーダーシップ行動が行えるようになります。1つずつ説明していきましょう。
1.リーダーシップの基礎理解
リーダーシップの基礎理解とは、これまで述べてきたような(参照「才能も権限もいらない『新時代のリーダーシップ』とは?」)新しいリーダーシップの考え方について知ることです。「全員発揮のリーダーシップ」という発想を持ったり、具体的なリーダーシップ行動についてイメージできれば、効果的なリーダーシップ行動をとることができます。リーダーシップを発揮する第一歩は、リーダーシップに対する知識を高めることなのです。
2.倫理性・市民性
リーダーシップを発揮するのはそもそもなんのためでしょうか? リーダーシップを発揮する上で重要なのは、「自分の所属するチームをよりよくしたい」とする思いです。自分だけがよければいいのではなく、所属する組織や社会に対してよりよい貢献をしたいという、他者からの共感を得るようなものの見方・考え方がなければ人や組織を動かすことはできないでしょう。
3.自己理解
近年のリーダーシップ研究では自己理解の必要性が高まっています。自己理解が不十分で、自分の個性・特徴に合っていない行動を取っても、周りにいい影響を及ぼすことはできないでしょう。したがって、自分はどのような人で、自分にはどのような強み・弱みがあるのかを把握することはリーダーシップを発揮する上で非常に重要なのです。
4.専門知識・スキル
効果的なリーダーシップを発揮するためには、その領域に関する知識やスキルが必要になります。例えば、サッカーの例で考えてみましょう。もし自分にサッカーの知識・スキルがなければ、チームに貢献する方法は「がんばって応援する」などの行動に限られてしまいます。しかし、知識・スキルがあれば、リーダーシップを発揮できる幅が広がり、効果的な行動ができる可能性が高まります。このように、専門知識・スキルの習得は重要な側面を持っています。
リーダーシップを高めるための学び方
前述の4つの視点からリーダーシップを高めるといっても、その人自身の学び方いかんによって結果が大きく変わってきます。学び方には、大別すると以下の3つのアプローチが考えられます。
●自己啓発を通して学ぶ:書籍を読むなどして、ひとりで学習する
●研修・トレーニングを通して学ぶ:それぞれを学ぶことを対象とした研修を受講する
● 経験を通して学ぶ:職場の経験のなかで学ぶ
これら3つはいずれもリーダーシップの向上と強い相関関係にありますが、中でも「経験を通して学ぶ」ことは人の成長に大きな影響を及ぼします。
職場での経験がリーダーシップの開発に大きな影響を与えることはさまざまな研究から明らかになっています。例えば、米国の経営学者であるM.マッコールは、これまでリーダーシップ開発が、現場を離れた研修室・教室などでのみ行われていることや、天賦の才能で決まるものと捉えられてきたことを批判し、「リーダーシップは学習可能なものであり、現場の業務体験の中で発達する」という主張を展開しました。この主張を裏付けるように、企業のマネージャーに自らが飛躍的に成長した経験を尋ねたところ、「最初の管理職の経験」や「ゼロからの立ち上げ」などの経験がリーダーシップを涵養する上で重要な要素であることが示されました。
D.コルブの提唱する「経験学習サイクル」
このように、リーダーシップを高めるためには、まずは職場で実際に行動して経験することです。ただし、経験したことをそのままにしておくと、その人の成長は限定的なものになってしまいます。そこで、経験から豊かな学びを引き出すために「振り返り」という行為が重要になるのです。経験を振り返ることでさまざまな気づきや発見がもたらされ、リーダーシップに関する持論が形成されるのです。
こうした「経験」と「振り返り」による学びのベースには、米国の経営学者であるD.コルブの提唱する「経験学習サイクル」という概念があります。
図の中の「具体的経験」とは、学習者が環境に働きかけることによる相互作用のことです。実際にリーダーシップ行動をしてみることといえます。「内省的観察」とは「ある個人がいったん実践・事業・仕事現場を離れ、自らの行為・経験・出来事の意味を、俯瞰的な観点、多様な観点から振り返ること、意味づけること」です。「抽象的概念化」とは、自らの経験を一般化、概念化、抽象化し、他の状況でも応用可能な知識やルールを自ら作り上げることです。
これはリーダーシップでいえば「持論化」ともいうことができます。「能動的実験」とは、これらをもとにあらためて実践をすることです。持論化をしてとどまるのではなく、それをもとに自分から行動することであらたな学びにつながります。
経験を通してリーダーシップを涵養するということは、このサイクルをまわすことでもあります。まずリーダーシップ行動をとってみて、その上で、その行動を自分なりに意味づけます。さらに、自分にとって「よいリーダーシップとは○○のようなものだ」といった、リーダーシップの持論をつくりだし、また行動するということが大切なのです。
※参考記事:経験学習モデルとは? ~D.コルブが提唱する「経験を学びにする方法」
リーダーシップ開発のプロセス
コルブのサイクルは基本的には個人で回していくものですが、他者との共同作業で取り組めば、その効果を高めることができます。例えば、振り返りにあたる「内省的観察」「抽象的概念化」を個人で行うだけではなく、他者からのフィードバックを受けることができれば気づきが促進され、視野が拡がるでしょう。
リーダーシップ開発とは、こうしたプロセスを経て進行していくのです。そのプロセスを意識したOJTの仕組みを構築したり、キャリアの節目ごとのOff-JTを設計するなど、適切な環境を整えることで、若手社員のリーダーシップが磨き高められていくのです。
出典:『リーダーシップ教育のフロンティア 研究編』(北大路書房)
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。