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パーパス経営とは? 意味や成功事例、失敗しないポイントを解説

2022年9月16日更新

パーパス経営とは? 意味や成功事例、失敗しないポイントを解説

近年注目を集めているパーパス経営について、どのように自社に取り入れればよいのか、お悩みの企業も多いことでしょう。今回は、パーパス経営の意味や経営理念との違い、事例や失敗しないポイントをご紹介します。

INDEX

パーパス経営とは?

パーパスを英語で表記すると「Purpose」で、日本語では「目的・意図」といった意味があります。
ビジネスでは、企業が社会の中で、どのような目的で存在しているのか、その存在意義を示す言葉として使われるのが一般的です。ここでは、パーパス経営の概念や企業理念との違いを解説します。

企業がSDGsの時代を生き抜くための新たな概念

パーパス経営とは、企業の存在意義を明確にし、社会に貢献する経営を実践することです。パーパス経営が注目されるようになったのは、2018年に世界大手の投資会社BlackRock社のトップ、ラリー・フィンク氏が、投資先の企業に宛てた書簡でパーパスについて言及したことが始まりだといわれています。

ラリー氏は、書簡の中で「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません。」(出典:LETTER TO CEO 2018: A Sense of Purpose | ブラックロック・ジャパン株式会社)と説いているのです。これをきっかけに、企業の存在意義は「利益創出」だけではなく「社会課題解決への貢献」にも重きを置くべきだという機運が高まりました。

企業の利益が上がっても、地域の環境が破壊されたり、社員の健康が損なわれたりするのであれば、それは好ましい姿とはいえません。自社の利益だけを追求するのではなく、社会全体の繁栄を考えるべきだという考え方を、経営の中心に据えるのがパーパス経営です。
2015年の国連サミットにおいてSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことも、パーパス経営が注目される大きなきっかけになりました。SDGsの考え方が浸透したことによって、人々が就職や転職を決める際にも、あるいは投資活動においても、環境や社会にとってよいビジネスを行っている企業かどうかを判断基準にすることが、世界的な潮流になってきているのです。

従来の経営理念とパーパス経営の違い

パーパスに近い言葉に経営理念があります。経営理念とは、企業を経営するうえで軸となる考え方や価値観のことです。理念の構造には「企業の存在目的」「企業の価値観」「企業の理想・精神・ ビジョン」「企業の行動規範」という4つの要素があり、これを社員に浸透させることによって、強い現場をつくります。
日本企業はこれまで、経営理念を軸に経営を進めてきました。しかし、グローバル化の進展によって、その理念をグローバルに浸透することが難しくなってきているという時代背景があります。そうしたなかで、経営理念を見直し、パーパスとして再定義しようという動きが加速されているともいえるでしょう。

経営理念の多くはパーパスと同じく「われわれは何のために存在するのか」を言葉にしたものであり、両者をはっきりと区分するのは難しいといえるでしょう。ただ、経営理念は、外発的なものであり、その抽象度が高いほど、社員が自分に関係ある事柄として認識しづらいという課題があります。

一方でパーパスは、内発的なものであり、企業活動がどのように社会に貢献するのかを表します。企業活動の結果として社会に好影響を与えることが言語化され、社員一人ひとりの中に刻み込まれる強い思いとして共感を得られる内容になります。

参考記事:PHP人材開発「経営理念とは? なぜ重要なのか。継承し、浸透させるための方法を解説」

名和高司氏との共同開発「パーパス(志本)経営実践プログラム」はこちら

パーパス経営はなぜ必要? パーパス経営に取り組むべき3つの理由

パーパス経営への注目度が高まる中、自社に取り入れるべきなのかどうかで悩む経営者も少なくありません。パーパス経営に取り組むべき理由には、次のような点が挙げられます。

  • ステークホルダーから支持される
  • 社員のエンゲージメントが高まる
  • ビジネスモデル革新による競争力の強化

それぞれの理由を確認していきましょう。

ステークホルダーから支持される

企業が活動するうえで直接的または間接的に影響を受ける利害関係者を「ステークホルダー」といいます。直接的な利害関係者の例を挙げると、クライアントや社員、株主などです。間接的な利害関係者には、地域社会や業界団体、行政機関などが含まれるでしょう。

パーパス経営に取り組むことで、社会的に存在意義のある企業であるということをステークホルダーにアピールできます。ビジネスとはいえ、自身が共感する企業を応援したいと考えるステークホルダーは多く、さらにその企業が社会の役に立っていると実感できれば、企業の信頼は高まることでしょう。
ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した企業へ投資を行うこと)が広がっていることもあり、パーパス経営の視点を持つことが、ステークホルダーから支持される最低限の指標になりつつあります。

参考:ESG(環境・社会・ガバナンス) | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI)

社員のエンゲージメントが高まる

パーパス経営に取り組むことで、社員のエンゲージメント向上に役立ちます。企業が掲げるパーパスは、社員にとってその企業で働く意味になり得ます。企業のパーパスと個人のパーパスの重なりが大きいほど、エンゲージメントは高まるでしょう。

「自分が働くことで社会に貢献できる」といった前向きな気持ちになるため、仕事への意欲を高められるのもメリットです。人材不足が課題となる企業が多いなか、社員のエンゲージメントや仕事への意欲を高められれば、人材流出のリスクが抑えられ、人材採用時の重要なアピールポイントにもなるでしょう。

参考記事:PHP人材開発「パーパスが企業と個人に求められる理由」

ビジネスモデル革新による競争力の強化

パーパスで企業が目指すべき目標を示すことにより、社員一人ひとりが自分は今何をすべきなのかを明確にできます。また社員全員が同じ方向に向かって思いを共有し、行動できるため、組織として一体感が生まれ、チーム力を向上できるのもメリットです。

こうした前向きな仕事への意欲が革新や変化を生み出し、企業のさらなる成長を実現します。近年はモノやサービスが溢れており、顧客から自社を選んでもらうには競合他社との差別化が欠かせません。企業が社会に対してどう貢献するのか、そのパーパスを明らかにすることで支持を得て、ビジネスモデルを革新できれば、競争力の強化につながります。

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パーパス経営の成功事例

日本におけるパーパス経営の先進企業であるソニーと富士通、ネスレ日本の成功事例をまとめました。
先進企業では、どのような経緯でパーパス経営に取り組むことになり、その後どういった効果が得られたのでしょうか。順に見ていきましょう。

ソニー

2019年、ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げました。その後、2019年後半から感染が拡大した新型コロナウイルスの影響により、従来のような業務の進行が困難な状況になります。しかし、コロナ禍にあっても社員が一丸となってパーパス経営に取り組みました。

たとえば、日常生活の制約でストレスを抱える消費者を楽しませるために、新たな機能を搭載したゲーム機の発売や映画の公開を実現しています。この結果、2020年度の収益は過去最高を記録したのです。

参考:ソニーグループポータル|Sony's Purpose & Values

富士通

2020年、富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にする」といったパーパスを掲げました。このパーパスを実現するために富士通が大切にする価値観は、「挑戦」「信頼」「共感」です。特に、経営における大きな変革期である現代において、富士通は「共感」を重要視しています。

共感といっても単に顧客に迎合するのではありません。顧客視点から一歩引いてDX人材の育成強化やリージョン体制への再構築など、あらゆる切り口で改善を図ったのです。また、オフィススペースの半減や新たな生活様式に適した人事制度など、会社の在り方を見直す取り組みも進めています。

参考:Fujitsu Way : 富士通

ネスレ日本

パーパス経営に取り組むネスレ日本は、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」というパーパスを掲げました。また「家族」「コミュニティ」「地域」に貢献するべく、長期的な目標を定めています。

日本では、健康的なコーヒー飲用習慣の推奨などの取り組みをおこないました。また、ネスレではSDGsを達成するためのパーパスを掲げており、子どもたちが健康に暮らせるような支援や環境負荷の軽減に取り組んでいます。

参考:日本での取り組み | サステナビリティ | ネスレ日本 企業サイト | Nestlé

失敗しないパーパス策定のポイント3つ

失敗しないパーパス策定のポイント3つ

社会貢献につながるパーパス経営に取り組むうえで、おさえるべきポイントは次のとおりです。

  • ターゲット顧客向けではなく社会全体を意識したものにする
  • 自社ならではのパーパスにする
  • 掲げるだけで終わらせず戦略に落とし込む

それぞれのポイントを確認しましょう。

ターゲット顧客向けではなく社会全体を意識したものにする

従来は顧客を意識した経営理念を掲げる企業が一般的でしたが、パーパスは社会に対して何をしていくかという観点で設定しなければなりません。収益に直結するようなターゲット顧客向けではなく、社会全体に好影響を与えられるパーパスがどんな企業にもあるはずです。

世界が直面する社会課題は、環境問題をはじめ人権問題やジェンダー平等、労働環境の改善などさまざまです。自社で展開する事業は何のためにあるのか、今一度問い直し、広く社会に貢献できるパーパスを見つけましょう。

自社ならではのパーパスにする

自社ならではのパーパスを掲げることが大切です。他社と似たような内容では自社の存在意義を社会に示すことは難しいでしょう。

自社の価値を改めて見直し、どういった活動が社会に良い影響をもたらすのかを考えてみましょう。組織の外からの客観的な意見も取り入れるため、顧客やパートナー、株主にヒアリングを行うのもおすすめです。企業独自のパーパスを策定するうえで、貴重な意見を集められます。

先述のソニーのパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」と、ゲーム、音楽、映画などのクリエイティビティと、カメラやオーディオに代表されるテクノロジーを両立させて世界に感動を与えていくという、ソニーにしかない強みと存在意義が的確に表現されています。

掲げるだけで終わらせず戦略に落とし込む

パーパスは存在意義を示して終わりではなく、企業戦略に落とし込まなければいけません。社員の日々の仕事がパーパスとつながっていなければ、形ばかりのパーパスとなり、掲げた意味がなくなってしまいます。また、立派なパーパスを掲げていても、活動が伴わないと、パーパス・ウォッシュだと指摘される可能性もあります。

パーパス・ウォッシュとは、掲げたパーパスに対して実際の活動が伴っていない状態のことです。パーパスを実現するための姿勢が見られず、社会的信頼や企業イメージを落としてしまうリスクがあります。パーパスを戦略へと落とし込むところまで策定し、着実に実績を積み上げることが大切です。

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日本企業のパーパス一例

パーパス経営に取り組んでいる企業は、ソニーや富士通、ネスレ日本だけではありません。ここでは、日本企業のパーパスの一部をまとめました。パーパスを策定する際の参考にしてください。

【東京海上ホールディングス】
「お客様や地域社会の"いざ"をお守りすること」
参考:東京海上グループの価値創造アプローチ | 経営戦略 | 東京海上ホールディングス

【三井住友トラスト・ホールディングス】
「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」
参考:経営理念|企業情報|三井住友トラスト・ホールディングス

【関西電力】
「あたりまえを守り、創る」
参考:経営理念・経営計画・ブランドステートメント|IR情報|関西電力

【講談社】
「おもしろくて、ためになる」
参考:理念|講談社ブランドストーリー 「おもしろくて、ためになる」を 世界へ

【ASKUL】
「仕事場とくらしと地球の明日にうれしいを届け続ける」
参考:ASKUL WAY | アスクル株式会社 企業サイト

【日産自動車】
「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける」
参考:パーパス・ミッション・DNA|会社情報|日産自動車企業情報サイト

パーパス経営に関するおすすめの本2選

パーパス経営を理解するために、おすすめの書籍をご紹介します。

  • 『パーパス経営:30年先の視点から現在を捉える』
  • 『働くことのパーパス』

『パーパス経営:30年先の視点から現在を捉える』

100社を超える有名企業の変革に携わった名和高司氏(一橋大学ビジネススクール客員教授)が、「志」を追求して成長を続けるための経営思想と具体的なマネジメントの方法を解説する本です。筆者は、パーパスという概念を一過性の流行にするのではなく、時代を超えた企業経営の軸とするため、パーパスを「志」、パーパス経営を「志本経営」と読み替えて解説しています。4部構成になっており、「志本経営」の基本理念や先進事例、実践するうえでの課題を取り上げています。パーパス経営とは何かを体系的に学ぶため、最初に手に取ってほしい一冊です。

『パーパス経営:30年先の視点から現在を捉える』(amazonリンク)
出版社:東洋経済新報社
出版日:2021年4月23日
著者:名和 高司

関連記事:PHPオンライン衆知「稲盛和夫と永守重信...若い世代も共感する両者の『パーパス経営』名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

『働くことのパーパス』

働くうえでどんな目的を持つか、人生で何を成し遂げたいかといった、個人のパーパスについて取り上げられています。社員一人ひとりがパーパスを見つけ、パーパスと仕事との接点を発見することは、企業のパーパス実現にも役立ちます。
社員へのアプローチ方法として参考になる一冊です。

『働くことのパーパス』(amazonリンク)
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2021年2年2日
著者:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部

まとめ

パーパス経営は、SDGsの時代を生き抜く企業の新たな経営手法として、注目を集めています。パーパスを策定して企業の社会的な存在意義を明確にすることで、ステークホルダーから支持されたり、社員のエンゲージメントが高まるなど多くの効果を得られます。

ここで紹介した日本企業の成功事例や、おすすめの本を参考にして、自社ならではのパーパスを発見し、パーパス経営の取り組みにお役立てください。

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