組織文化とは? 定義や構成要素、企業事例を紹介
2024年1月18日更新
「組織文化」の定義や構成要素、メリット・デメリット、浸透させるためのポイントなどを解説します。「この組織には、受け継がれてきた組織文化がある」というような話を耳にすることがありますが、組織文化をどう定義し、定着させていけばいいのかとなると、意外と明確になっていないものです。組織文化について理解し、社内に根付かせたいと考えている方は、この記事を参考にしてみてください。
INDEX
組織文化の定義とは?
組織文化とは、組織のメンバー内で共有され、定着する行動原理や思考様式のことです。組織が重要視している価値観や信念ともいえます。従業員の認識を統一し、ビジョンや目的を実現するための行動指針にもなるため、組織文化の浸透は企業の成長にもつながります。
ここでは、組織文化と組織風土の違いや注目される背景、種類について解説します。
組織文化と組織風土との違い
組織文化と組織風土では、組織への根付き方に違いがあります。意図的に構築されたものが組織文化であり、自然に生まれて無意識のうちに定着した習慣が組織風土です。
組織文化は組織のあるべき姿を明確にして共有される行動規範や価値観であるため、コントロールができます。自社や競合他社の状況、市場の変化に応じて柔軟に対応することも可能です。
一方の組織風土は、時を経て継承されて組織に根付くものであるため、意図的に変えることが難しいといった特徴があります。
参考記事:成果に直結する組織風土改革の進め方とは? 成功事例も解説│PHP人材開発
組織文化が重要視される背景
組織文化が重要視される背景には、変化の激しい経営環境に、企業が柔軟に対応する必要性が高まったことが挙げられます。変化の激しい市場では、予測不可能な問題が発生することもあるでしょう。そのようなときに組織が一体となって問題解決に取り組み、競争力を維持するためには、迅速な意思決定や高い生産性が求められます。
組織文化が浸透している状態であれば、従業員が共通認識や行動規範を持ち、個々が何をするべきかを考えることが可能です。判断に迷うことがあっても、組織文化に立ち返ることで判断ミスを防ぎ、スムーズな対応が期待できるでしょう。
さらに組織文化の浸透は、企業の成長に不可欠とされる優秀な人材の確保にもつながります。明確な組織文化があることで自社の魅力や特徴を発信できるため、求職者が企業理念を理解しやすくなるでしょう。自社の組織文化に共感して入社した人材は、組織が目指すゴールに向けて活躍する優秀な人材へと成長することが期待できます。
組織文化の種類
組織文化について、ミシガン大学のロバート・クイン氏、キム・キャメロン氏は組織文化の診断のための「競合価値観フレームワーク」で、4つのタイプに分類しています。
●イノベーション文化(The Adhocracy Culture)
●家族文化(The Clan Culture)
●官僚文化(The Hierarchy Culture)
●マーケット文化(The Market Culture)
イノベーション文化(The Adhocracy Culture)
イノベーション文化は、柔軟性と革新性が重視される組織文化です。従業員の主体性や斬新なアイデアが尊重されるためトレンドにも対応しやすく、イノベーションを起こすために優れた環境といえるでしょう。従業員それぞれの裁量が大きく、新しい価値を見出してチャンスを広げたい人には魅力的な文化です。リスクの大きな挑戦を厭わない部分もあるため、安定的に仕事したい人には合わないこともあるでしょう。
家族文化(The Clan Culture)
家族文化は、組織が従業員同士のつながりや一体感、信頼関係に重きを置き、連帯感を高める組織文化です。従業員が協調性を保ち、同じ目標に向けて協力して達成する傾向にあります。コミュニケーションが活発な環境や、チームワークを大切にする人に合った文化といえるでしょう。一方、個人の成果を伸ばしたい人は、周りとの調和が求められる状況に不満を感じることもあります。
官僚文化(The Hierarchy Culture)
官僚文化は階層型文化と訳されることもあり、既存のルールや制度、上層部の指示などに基づいた判断が重視される組織文化です。指示命令系統が明確で統制がとりやすく、組織の安定性と秩序の維持につながる特徴があります。経営層からの支配的な組織文化になるため、意思決定や業務のスピード感がある一方、従業員の主体性が損なわれることや、状況変化に対応しにくくなるという懸念点もあります。
マーケット文化(The Market Culture)
マーケット文化は、組織が市場や顧客の関係と結果を重視し、競争力を高めることに力を注ぐ組織文化です。市場ニーズや顧客満足度、収益性など、競合優位性を維持する要素に重きが置かれます。組織の中でも競争が発生しやすいため、従業員の成果にもつながりやすいでしょう。一方、個人の成果が求められる成果主義が合わない人にとっては、働きにくい環境になる可能性もあります。
組織文化の構成要素
組織文化は、以下のようなさまざまな要素によって構成されています。
●ビジョンやミッション
●リーダーの意志や行動
●人材の採用
●従業員の評価
●ストーリーの共有
●社会の変化
これらの要素が複雑に絡むことで、組織による独自の文化ができあがります。組織の特性にもなるため、一つひとつの要素が重要です。ここからは、組織文化の構成要素について詳しく解説します。
ビジョンやミッション
ビジョンやミッションは、組織が目指すべきゴールや全うする使命を示すものです。従業員の行動基準にもなるため、明確なビジョンはスムーズな意思決定や業務の遂行にもつながります。また、組織のビジョンやミッションが共感できるものであれば、取引先や顧客からの信頼を得ることにつながるため、新しいビジネスチャンスを獲得することにも期待できるでしょう。
参考記事:力強い成長力を生み出す「経営理念・ビジョン」とは~「成長ドライバ」のあるべき姿│PHP人材開発
リーダーの意志や行動
リーダーの意思や行動は、組織文化に大きく影響します。掲げたビジョンやミッションについて、リーダー自身が共感して体現することで、従業員への説得力につながるためです。ビジョンやミッションを言葉で表しても、実行されていなければ意味がありません。
従業員に影響を与えるリーダーが、行動指針を落とし込んで日々の意思決定や行動化することで、理想的な組織文化の浸透が期待できるでしょう。
人材の採用
人材の採用も、組織文化に強い影響を与える要素の一つです。人材は組織文化をつくる一因でもあり、採用の際は組織文化に共感できる人材を選ぶ必要があります。スキルを重視した結果、入社後にミスマッチが発生すると離職につながることもあるでしょう。
経営層が大切にしたいと考えている文化を守り続けるためには、組織文化を明確に示した上で、共感できる人材を採用することが必要です。
従業員の評価
従業員の評価は、従業員に組織文化を浸透させるために重要な制度です。組織文化を基準に評価される行動を明確にして、従業員の行動規範を示せます。
たとえば、前述のマーケット文化のような個人の成果が重視される組織文化であれば、個人の業績をもとに評価されるでしょう。イノベーション文化であれば、業績よりも個人が組織の変革にいかに貢献したかを重視した評価基準になると考えられます。
組織の評価方針によって従業員も変化するため、組織文化の醸成につながっていきます。
ストーリーの共有
ストーリーの共有は、組織文化の形成に効果的な要素です。創業者の思いや組織の苦労話、サービスや商品開発の経緯などは、従業員の共感を得やすいものです。たとえば、創業者が「なぜこの会社を始めたのか」「この会社で何を実現したいのか」という思いについて、従業員に共有する会社は多いでしょう。創業者の思いが従業員に受け継がれることが、組織文化を形成する要素になるのです。
社内でさまざまなストーリーが共有されることで、組織の歴史や自社で扱う商品にも愛着がわき、従業員のエンゲージメントにもつながります。その中に新しい価値観が加わっていくことで、組織文化がより磨かれていくでしょう。
社会の変化
社会の変化は、組織文化に影響をもたらす要素の一つです。社会の変化に応じて市場の状況や人々の価値観は多様化していき、それに応じた組織文化の見直しも求められます。
たとえばデジタルツールの活用が浸透する中、旧態依然の業務プロセスで新しい事業を立ち上げても、生産性が上がらないことがあります。そうなると、デジタルツールを駆使して事業を拡大する競合に淘汰されるかもしれません。
社会の変化に合わせて組織文化に新たな価値観を採り入れることで、予測不可能な環境の変化にも柔軟に対応できます。
組織文化が従業員に浸透することで得られるメリット
組織文化が従業員に浸透すると、以下のようなメリットが得られます。
●従業員のエンゲージメントが向上する
●スピーディな意思決定が可能となる
●社外に企業イメージが定着する
●優秀な人材の確保につながる
組織文化が従業員に根付くことで、共通の行動指針のもと同じ方向に進めます。組織に一体感が生まれやすくなり、コミュニケーションも活発になるでしょう。結果、従業員のエンゲージメントにつながります。また、組織文化は組織の意思決定の指標にもなるため、予想外の問題に対しても方向性を見失いにくいです。そのため、意思決定をスピーディに行い、市場状況の変化にも柔軟な対応ができます。
さらに、明確な組織文化があることで、社外にイメージが定着し、取引先や顧客など社外に対してブランディングできるのもメリットの一つです。企業の理念が明らかで従業員が体現できていれば、社外からの共感も生まれやすく、企業のファンを獲得することも期待できます。顧客や取引先だけではなく、求職者にとっても魅力的に映れば、優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
組織文化が従業員に浸透するデメリット
組織文化が従業員に浸透するデメリットには、以下のことが挙げられます。
●新たな発想が生まれにくい
●排他性が生まれる可能性がある
組織文化が浸透すると、従業員の思考や行動がパターン化してくるため、新たな発想が生まれにくくなることが懸念されます。社会の変化に合わせて柔軟に対応するためには、ベースとなる組織文化を大切にしつつ、新しい価値観を採り入れる試みも求められるでしょう。
また、組織文化が強まると同調圧力などで排他性が生まれ、居心地を悪く感じる従業員が出てくる可能性があります。従業員の離職につながるだけではなく、求職者が組織文化に圧倒されて採用活動に支障をきたすこともあるでしょう。組織を客観視し、組織文化の影響が強くなりすぎない工夫が求められます。
組織文化を浸透させるためのポイント
組織文化を醸成、浸透させるためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
●社内全体で共有する
●環境を整備する
●評価制度を設ける
とくに、今までにない組織文化を根付かせるには時間を要します。ポイントを押さえることで、効果的に浸透することが期待できるでしょう。
ここでは、組織文化を浸透させるためのポイントについて解説します。
社内全体で共有する
組織文化を浸透させるためには、社内全体で組織文化について共有することが効果的です。経営層が自身の言葉で、組織の目指すべきゴールや組織文化を浸透させるメリットを従業員に向けて伝えると共感を得やすくなります。
また、組織文化と聞いてぼんやりとしたイメージしか持てない従業員がいることも考えられるため、研修の実施も効果的な方法です。組織の理想像や価値観を一方的に伝えるのではなく、組織文化を伝えながら、個々の従業員から意見を出してもらいながら、認識を共有し合意形成することが求められるでしょう。
環境を整備する
組織文化が根付くためには、組織文化に合わせた環境の整備が必要です。整備の対象としては、社内規則や制度、オフィス環境などがあげられます。
たとえば、イノベーション文化のように変革を重視した組織では、従業員が自由闊達に意見交換やアイデアの提案ができる、カジュアルなミーティングを定期的に取り入れることが効果的です。組織文化の一つとして、ITツールを使いこなして業務を効率化したいという場合は、負担が大きい業務を自動化できるツールの導入を検討できます。
組織文化を体現できる環境があれば、従業員の主体的な行動にもつなげやすくなるでしょう。
評価制度を設ける
組織文化を浸透させるためには、組織文化に基づく行動や言動をとる従業員を評価する制度を設けることが大切です。評価制度があることが従業員の行動目標となり、自発的に組織文化を意識した行動をとりやすくなります。
逆に、組織文化に沿った行動が評価されることがなければ、方向性に矛盾が生じるでしょう。組織の方向性に合わない評価では従業員からの納得を得られず、組織文化が浸透しにくくなります。また、組織に対する不信感につながるリスクもあるでしょう。
正しい評価をするためには、従業員を評価する上司や上層部も組織文化について十分に理解し、評価に落とし込むことが必要です。
組織文化の企業事例
大手自動車メーカーのトヨタ自動車では「トヨタ行動指針」「トヨタウェイ2020」に、企業の掲げる理念がまとめられています。所属するすべての従業員が「幸せを量産する」という使命を果たし、「可動性(モビリティー)を社会の可能性に変えていく」ための心構えです。
創業以来受け継がれるトヨタ独自の経営方針や価値観、手法を踏まえ、日常業務に落とし込むための行動指針で、従業員の行動基盤にもなっている組織文化といえるでしょう。以前は「トヨタ2001」が採用されており、時代の流れに応じて掲げる内容も変化しています。
まとめ:組織文化は企業を成功へと導く重要な要素
組織文化は、組織のメンバーが同じ方向を向いて進み、企業を成功へ導くために必要不可欠です。とくに社会の変化が激しい現代においては、スピーディな意思決定を行い、組織が一体となって柔軟に対応していくことが求められます。そのため、行動の指針となる組織文化の浸透が、今までにも増して重視されるようになってきました。
経営層がその重要性を認識したうえで、組織文化が浸透するためのポイントを押さえ、従業員一人ひとりが行動化できるまで浸透を図ることが大切です。