エンゲージメントの向上~人的資本経営を実践する
2023年2月14日更新
内閣官房が2022年に発表した「人的資本可視化指針」によると、開示が求められる人的資本に関する情報として6つの大項目が提示されています。
1.育成 2.エンゲージメント 3.流動性 4.ダイバーシティ 5.健康・安全 6.労働慣行・コンプライアンス
本稿では、6つの大項目のうち「2.エンゲージメント」について、その重要性と向上策を考察いたします。
なお、人的資本経営の概要については下記をご覧ください。
参考記事:人的資本経営とは? そのメリットや推進方法を具体的に解説
エンゲージメントとは
エンゲージメント(engagement)は本来、「誓約」「約束」「契約」などの意味をもつ英単語ですが、人材マネジメント領域における「従業員エンゲージメント」とは、「従業員の、所属組織への信頼感や貢献意欲の状態を表したもの」とされています。
エンゲージメントが注目される背景には、ワークスタイルの変化・多様化に伴い、人材マネジメントの難しさが増しているという事情があります。在宅勤務の普及や、勤務形態の多様化、副業の解禁、等々は、働きやすさを推進する反面、物理的なつながりが弱まり、組織と個人をバラバラにする「遠心力」を生み出す恐れがあります。
したがって、組織と個人の間の精神的なつながりを維持する「求心力」を生み出すために、エンゲージメント向上の取り組みが重要性を増しているのです。
参考記事:PHP人材開発「エンゲージメントとは? 組織風土改革との関係やマネジメントを解説」
エンゲージメント向上で得られるメリット
エンゲージメントの向上が企業活動にもたらすメリットは多岐にわたりますが、ここでは主要3項目について解説いたします。
1.人材の確保
Z世代と呼ばれる最近の若者たちは、職業や会社を選ぶ際、「働きがい・やりがいを感じられる仕事か」「自身が成長できる組織か」「人間関係の良好な職場か」といった基準で判断すると言われています。したがって、エンゲージメントの高い会社は、優秀な人材を採用し、定着させるうえで有利になるのです。
2.生産性の向上
同じ内容の仕事でも、意欲が高い状態で取り組むのと、低い状態で取り組むのでは成果がまったく異なることは容易に想像できます。実際、コンサルティング会社ベインアンドカンパニー社が行った調査によると、「意欲の高い社員の生産性は、低い社員の生産性の2倍超に達する」という結果が明らかになりました。
3.チーム力の強化
エンゲージメントの向上は、所属組織への信頼感を高め、心理的安全性の確保につながります。そうした状況の下では、チームとしての一体感が増し、組織パフォーマンスの向上やイノベーションの創出などが期待できるでしょう。
エンゲージメント向上の3ステップ
エンゲージメントを向上させる方法について、以下の3つのステップでポイントをご紹介します。
1.現状把握
まずはエンゲージメントの現状を把握することから始めます。エンゲージメントの状況を測定する「エンゲージメントサーベイ」は実施方法によって、「センサスサーベイ」(年に1回程度で多くの質問数で実施する)と「パルスサーベイ」(高頻度に少ない質問数で実施する)があります。センサスサーベイは、組織の状態を詳細に分析することができる一方、パルスサーベイは、より短いサイクルで組織の変化を追いかけることができます。
2.価値観の共有
次に、取り組むのが価値観の共有です。組織が大切にしている価値観(理念、ミッション、パーパス)と、個人が大切にしている価値観(人生観、キャリアビジョン)のすり合わせを行うのです。両者の接点を模索するような対話を、1on1等の場で継続的に実践するのが有効です。
3.関係の質の向上
第3ステップでは、従業員どうしをつなげていく取り組みを行います。定期的に、該当メンバーが集まって、「職場を良くするためにどうすればいいか」等のテーマで話し合うことで相互理解が促進します。その他にも、「組織開発」の領域で紹介されている手法が参考になるでしょう。
これまでの常識にとらわれない取り組みを
これまでの日本企業にはエンゲージメントという発想はありませんでした。なぜならば、経済的な豊かさを追い求め、その目標をある程度達成できていた時代は、個人と組織の両者が共に恩恵を受けることができたからです。その時代の常識は、「仕事に対する意欲などは自分で高めるものだ」という考え方でしたが、今でもそういう考えをもっている人が少なくないかもしれません。
しかし、失われた20年を経てもなお、日本の競争力が低迷したままで、自信を失った人が増えました。また、そういう大人たちを身近に見ながら成長したZ世代は、旧世代とは明らかに異なる価値観をもっています。ことほどさように、世の中が大きく変わり、昭和、平成の時代の常識が通じにくくなりました。
そういう意味で、経営者、人事担当の方がたには、これまでの常識にとらわれない新しい発想で、自社に合ったエンゲージメント向上策を考え、実践していただきたいと思います。
参考記事:PHP人材開発
・ダイバーシティの推進~人的資本経営を実践する
・リーダーシップの育成~人的資本経営を実践する
・エンゲージメントサーベイとは? 実施の目的と効果・進め方を紹介
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。