リーダーシップの育成~人的資本経営を実践する
2023年2月 6日更新
内閣官房が2022年に発表した「人的資本可視化指針」によると、開示が求められる人的資本に関する情報として6つの大項目が提示されています。本稿では、6つの大項目のうち「1.育成」について、「リーダーシップ育成」という文脈から、その意義と実践方法を解説いたします。
※内閣官房が2022年に発表した「人的資本可視化指針」による開示事項
1.育成 2.エンゲージメント 3.流動性 4.ダイバーシティ 5.健康・安全 6.労働慣行・コンプライアンス
なお、人的資本経営の概要については下記をご覧ください。
参考記事:人的資本経営とは? そのメリットや推進方法を具体的に解説
今、なぜリーダーシップなのか。リーダーシップとマネジメントの違いとは?
企業活動におけるリーダーシップの重要性が高まっています。その理由を考えるにあたり、マネジメントとリーダーシップの違いに着目すると理解が促進します。
マネジメントは、経営資源を一定ルールに則って最大限に活用し、成果を極大化させる、もろもろの活動を指します。事業が安定した状態にあり、仕事のやり方が標準化・マニュアル化された状況の下でマネジメントは真価を発揮します。
一方、リーダーシップとは無から有を生み出す「想像・創造」の機能です。今までにないサービスや製品を生み出したり(イノベーション)、組織が到達すべき将来の姿(ビジョン)を描いてそこに人を巻き込むような活動がリーダーシップなのです。
現代は激動の時代です。ビジネスで成果を出すための仕組みや考え方が常に変化している状況のもとで、リーダーシップの重要性が高まるのは当然とも言えます。
参考記事:PHP人材開発「マネジメントとは? 5つの機能やマネジメント能力を強化する方法を解説」
リーダーシップのレベル
ただ、一口にリーダーシップと言っても、組織におけるポジショニングに応じて、求められるレベルも変わってきます。
経営者・経営幹部のリーダーシップ
経営者・経営幹部の仕事は「経営をする」ことです。経営をするとは、組織の強みと市場ニーズのマッチングを考え、実行することを言います。ところが、業績が低迷している組織ほど、経営者・経営幹部が「オペレーション」(日常業務)にどっぷり浸かり、経営をしていないという傾向があります。
厳しい経営環境を乗り切るためには、オペレーションは現場に任せ、バックキャスト(非連続的な未来像から逆引きの視点で戦略を考えること)をして、今やるべきことを考え続けなければいけません。それが、経営者・経営幹部のリーダーシップなのです。
管理・監督者のリーダーシップ
現場と経営をつなぐ管理・監督者の役割は非常に重要です。その役割とは、トップから示された方針・ビジョンを実現するための具体的な方策を考え、現場に落とし込み、実行に導いていくことです。どんなにすぐれた方針やビジョンが掲げられても、それが実行されなければ、何の意味もありません。
したがって、管理・監督者は、取り組むべきタスクの意味・意義を繰り返し伝えると同時に、一人ひとりに声をかけ、やる気を高めながらチームを一枚岩にしていく必要があります。管理・監督者の強いリーダーシップが現場の実行力を高めるのです。
一般社員のリーダーシップ
リーダーシップは役職者だけのものではありません。新入社員を含む、一般社員にもその発揮が期待されるのです。一般社員が発揮するリーダーシップとは、主体的に創意工夫して仕事を改善していくとか、新たな仕事を生み出していく、あるいはより良い職場づくりのための行動を取る、等、自らの意志と責任で行動を取ることを指します。
一般社員がリーダーシップを発揮すると、職場の活性化につながりますし、その人自身のやりがい・働きがいの向上も図られるでしょう。
全員参加の経営を目指す
人的資本情報の開示項目に、「リーダーシップ育成」が盛り込まれているから取り組むというスタンスではなく、経営力を高め、業績向上を実現するという観点から、その育成を計画的に考え実行するべきです。そして、階層を問わず、社内でリーダーシップを発揮する人が増えれば、変化に機敏に対応する態勢が整うでしょう。まさに「全員参加の経営」が実現するのです。
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的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所 人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。